ネネツが目撃した第11クレーターの爆発

 2017年7月28日、ヤマルの先住民オコテット氏とヴェンゴ氏はツンドラで突然起こった第11クレーターの爆発の瞬間を目撃しました。ヤマル半島では、先住民族のネネツがトナカイ放牧をしながら遊牧生活を送っています(図7)。オコテット氏は、このクレーター爆発を目撃してすぐに研究者に知らせました。さらに、爆発によるキノコ雲が立ち上っていく様子をビデオに撮影しています(図8)。

図7:ヤマル半島・ネネツ家族のキャンプ(三角テントはチュムと呼ばれる)。トナカイ放牧をしながら遊牧生活を営む(撮影:V. V. Samsonova)。
図7:ヤマル半島・ネネツ家族のキャンプ(三角テントはチュムと呼ばれる)。トナカイ放牧をしながら遊牧生活を営む(撮影:V. V. Samsonova)。
図8:2017年7月28日、C11クレーターのガス噴出直後に見られたキノコ雲 (爆発地点から約20kmでM.N.Okotetto撮影:Bogoyavlensky et al., 2019より)
図8:2017年7月28日、C11クレーターのガス噴出直後に見られたキノコ雲 (爆発地点から約20kmでM.N.Okotetto撮影:Bogoyavlensky et al., 2019より)

 一方、ヴェンゴ氏は爆発現場から数百mの場所で家族とともにトナカイをキャンプに誘導していました。彼が一瞬の閃光(せんこう)とともに爆発を見た後、その場に炎が約1時間立ち上り続けました。驚いて逃げてしまったトナカイを集めるのに丸一日かかったと証言しています。これまでに爆発現場で燃焼が確認されたことはなく、この報告は爆発とその後の炎の目撃、そして燃焼の痕跡が見られた特殊な例となりました。また、この爆発が幅10m以上の川の中州に存在していた小高い丘で発生したことも特殊でした。ヴェンゴ氏の家族はこの小丘に登り、しばしばトナカイの監視に利用していたといいます。

 もう一つ特殊な点は、爆発から3年が経過してもなお天然ガスが地中から噴出し続けているということです。大穴は川の水で満たされていますが、2019年と2020年はそれまでの10倍のガス湧出量が見られました(Bogoyavlensky et al., 2021a)。

噴出するガスの源は?

 ヤマルの大穴爆発を引き起こす天然ガスはどこから来るのでしょうか。これまでに見てきた情報と研究から、3つの源が考えられています。まず、地下深部の天然ガス床が挙げられ、ガスが地殻の割れ目や断層に沿って地表近くまで上昇してきたと考えられます。次に、氷期に形成されたガスハイドレートの残存が分解したもの、そして発生量は比較的小さいと考えられますが、地表面の湿地や湖に堆積した有機物の分解による発生が加わります(Chuvilin et al., 2020)。

 先の目撃証言がある第11クレーターにおける数年にわたる大量のガス放出は、この地下深部からの巨大な天然ガス床が源と考えられます。こうした天然ガスが何らかの理由で1カ所に集中し、永久凍土に囲まれた地中でその圧力を増加させて、行き場を失ったガス・水・堆積物の混合物が地表面の凍結丘形成を経て地上に噴出した、というストーリーに落ち着いてきたようです。

ガスハイドレートの分解

 ガスハイドレートとは、水分子でできたかご型の構造の中に二酸化炭素やメタンガスの分子が閉じ込められた化合物です。ハイドレート中には、大気中で大きな体積を占めて存在するガス分子が圧縮されて閉じ込められています。例えば、メタンハイドレートの塊が分解するとその体積の100倍以上のメタンガスが発生します(図9)。しかし、ガスハイドレートは低温高圧などある条件下でしか安定して存在できません(塩類濃度、包接されるガス組成によって異なる)。

図9:燃える氷、ガスハイドレート(メタンハイドレート)(Science Party SO174, https://www.geomar.de/en/news/article/gas-hydrate-research-advanced-knowledge-and-new-technologiesより)
図9:燃える氷、ガスハイドレート(メタンハイドレート)(Science Party SO174, https://www.geomar.de/en/news/article/gas-hydrate-research-advanced-knowledge-and-new-technologiesより)

 地球上では、高圧かつ比較的低温条件下にある深海底約1000m付近に存在することが確認されています。陸地でも、北極域の低温環境にある永久凍土帯で高圧条件が維持される地中深く(約150m以深)に存在することができます。

 モデル計算によってヤマル半島における過去13万年間の地中状態を再現した研究(Arzhanov et al. , 2020)によると、氷期には地表付近でもガスハイドレートが安定して存在できる圧力と温度の領域があり、多くのガスハイドレートが形成された可能性があることが分かりました。しかし、現在では、この安定領域は地下150m付近にしかないので、氷期に形成されたガスハイドレートは過去の温暖期に分解してしまっているはずです。最終氷期から気候の温暖化が進み、北半球が最も暖かかったのは、6000年くらい前とされています。ヤマル半島でもこの温暖期には地表面に近いガスハイドレートの分解が進んだと考えられています(Arzhanov et al., 2020)。

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