第1クレーターの集中的な調査
ヤマル半島最大級のガス田ボヴァネンコヴォの南方で2014年夏に発見された上述のクレーターを報告順に第1クレーターとしましょう。第1クレーターには複数の研究グループが現地調査に訪れて研究を行いました。これまでに、永久凍土の掘削と試料分析、周辺の気体化学分析、物理探査、衛星画像解析などの結果が報告されています。目視できるクレーターの直径は25~29mですが、爆発直後は、直径15~16mのきれいな円筒状の縦穴が26m下まで続き、それよりも深部は少し横に膨らんだ形をしていました。穴の深さは50m以上で、特定することができませんでした。
隕石の衝突であれば周囲の放射線量に異常値が見つかるはずですが、現地調査時の放射線量は平常でした。ヘリコプターによる発見後すぐに現地入りした研究グループ(Leibman et al., 2014)によると、大穴に近づくにつれてメタンガス濃度が高くなり、クレーター内部では爆発の可能性がある5%を大きく超える9%を計測したことから、メタンなどの天然ガスの放出と関係があることが分かりました。
一方、高濃度の天然ガスが噴出したと考えられるにもかかわらず、燃焼の痕跡は一切見つかりませんでした。人間活動の痕跡もなく、軍事的な実験など、人為的な原因も排除されました。考えられる可能性は、地中にたまった天然ガス、水、土の混合物の圧力が高まり、ある臨界点で地表の永久凍土層を吹き飛ばして噴出するという圧力爆発現象です。
地下の天然ガスが関わったと考えられる前兆現象も報告されています。ヤマル半島のツンドラには、無数の湖が存在します(図5)。これまでに見つかったいくつかの永久凍土クレーターは、これらの湖のすぐ近くで発見され、クレーター出現前にその湖水色が変化する現象が確認されています(Sizov, 2015)。例えば、第4クレーターを衛星写真で確認すると、爆発の前に近隣の湖水が周囲でよく見られる暗い青緑からトルコ石のような明るい青緑に変わっているのです(図6)。これは、湖底から噴出した天然ガスが水質を酸性に変え、周りの鉱物を溶かすことによって湖水の色が変化したと考えられます。


第1クレーターの位置を、過去に撮影された衛星写真を高分解能で解析した研究(Kizyakov et al., 2015)によると、爆発前には大穴の位置に高さ5~6m、裾野の直径が45~58mの小高い丘が存在していたことが分かりました。このような丘は永久凍土帯ではしばしば見られ、凍結丘と呼ばれます。凍結丘は、地面の凍結と地下水流が関係した地下氷の形成によって盛り上がったマウンド状の地形で、北米でピンゴ、ロシアではブルグニャフと呼ばれます。
第1クレーターの後に発見・報告されたすべてのクレーターの爆発前にこの凍結丘が存在していたことが分かりました。第1クレーターにおける凍結丘の成長が数十年間と見積もられる一方、これまでに考えられていた形成スピードよりも速く、数年で形成されたものもありました(Arefyev et al., 2017;Kizyakov et al., 2020)。
第2クレーター爆発前に地上に存在していた丘の体積は、爆発で出来た外輪山や周囲70mに飛び散った堆積物の量の6倍もあります。これは、凍結丘を形成した物質の多くが地下氷であったため、爆発後に氷の部分が融けてしまったためと考えられます。凍結丘下の空洞の体積は22万m3と見積もられていますが(Vorobyev et al., 2019)、これは国内最大級の都市ガス会社による貯蔵用球形タンクであれば10個分に相当する量です。
この空洞部分に存在していたガスや氷、堆積物の割合と形状は詳しく分かっていません。地下26m深まではきれいな円筒状の穴ですが、それよりも深い部分では横方向に広がり、洞窟状の空間が存在していた様子ですが、爆発後のひと夏の間に地下氷が融けた水と雨水の流入によって大穴の半分が水没してしまいました。
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