楽観も恐怖も、半分は知らないことによるものです。ウイルスは感染相手が決まっていて、土のウイルスの主な感染相手は微生物や植物です。また、土の中には多くのウイルスが存在しますが、一つひとつのウイルスは低密度です。土の中では、一つのウイルスだけがむやみに増殖しないよう、多数の生物やウイルスが競合し、制御されています。これはホモ・サピエンスという一種の生物が密集して暮らす都市と対極をなすものです。土を触った後で手を洗うことは必要ですが、土との触れ合いにはストレスをとり、免疫を高める効果があることが分かっています。土、微生物、ウイルスという未知の相手を恐れるだけでなく、特徴を理解して付き合う必要があります。

 永久凍土は富士山、大雪山、立山の山頂付近でも発見されています。軽井沢の地層には、凍土の融解・再凍結によって生じる地面の凹凸(凍上現象の証拠)が記録され、日本にも数万年前まで永久凍土が広がっていたことが分かっています(図7)。凍土の融解は今に始まったことではありません。北極海の海氷や永久凍土の融解によってこれから地球に何が起こるのかを軽井沢の土が教えてくれるかもしれません。凍土はどこか遠い国の話ではなく、足元の土と地続きの問題です。北極圏だけではなく富士山の話でもあると思えば、未知なる凍土への恐怖は半減し、気候変動も身近な問題として取り組めるのではないかと思います。

図7:軽井沢の地層に残る過去の凍土層。凍結・融解によって形成される地面の凹凸が残っている。
図7:軽井沢の地層に残る過去の凍土層。凍結・融解によって形成される地面の凹凸が残っている。
*1 Reid, A. H., Fanning, T. G., Hultin, J. V., Taubenberger, J. K. (1999) Origin and evolution of the 1918 “Spanish” influenza virus hemagglutinin gene. Proceedings of the National Academy of Sciences, 96, 1651-1656.
*2 Akasofu, S. I. (2010) On the recovery from the Little Ice Age. Natural Science, 2, 1211-1224..
*3 藤井一至(2018) 『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』 光文社新書 p. 68-72.
*4 https://www.youtube.com/watch?v=C-d71gJB9mM
*5 Gross, M. (2019) Permafrost thaw releases problems. Current Biology, 29, R39-R41
*6 Legendre, Matthieu, et al. (2015) In-depth study of Mollivirus sibericum, a new 30,000-y-old giant virus infecting Acanthamoeba. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112.38 (2015): E5327-E5335.
*7 D’Onofrio, et al. (2010) Siderophores from neighboring organisms promote the growth of uncultured bacteria. Chemistry & Biology, 17, 254-264.
今回の著者: 藤井 一至(ふじい・かずみち)
土の研究者 国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員
1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界、日本の各地を飛び回る。第1回日本生態学会奨励賞、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。著書に『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』(光文社、第7回河合隼雄学芸賞受賞)、『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と溪谷社)など。

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