永久凍土が存在する領域は北半球陸域の25%程度を占め、過去から蓄積された有機物が大量に含まれています。地球温暖化によって永久凍土が融解すると、蓄積された有機物が分解され、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが放出されることにより、気候変動をさらに加速させることが懸念されています。今回は、現地観測の様子と合わせて、IPCC第6次評価報告書(以下、IPCC AR6)にまとめられた最新の知見と、今後の研究の展望について紹介します。

1.ツンドラ永久凍土地帯を歩く

 地球温暖化に伴う永久凍土の融解と、それによる温室効果ガス放出が気候変動に与える影響についての研究を、私たちは進めています(参考:永久凍土は地球温暖化で解けているのか? アラスカ調査レポート現地観測編)。地下に永久凍土の存在する「ツンドラ地帯」(アラスカ・バロー)を歩いた映像が以下の動画です。

 ツンドラ地帯では気温が低いために、樹木が大きく育ちません。このため見渡す限り同じ景色が広がっています。地表付近は様々な種類のコケ植物や地衣類が入り交じって生えていて、厚さ数十センチくらいのふかふかしたクッションのような柔らかさをしています。観測を行ったのは夏の終わり(2018年9月上旬)で、地表付近が解けているために、地下に氷がある場所には窪(くぼ)みができて水がたまっています。地表面付近の植生が柔らかすぎて足が沈んでしまうために、非常に安定しない動画になっていることをお許しください。

2.永久凍土には大量の有機物が含まれている

 土の中には、生物(主に植物)の死骸が有機物の形で含まれています。土の中の有機物は微生物などによって分解され、二酸化炭素やメタンの形で地表から大気に放出されます。永久凍土地帯では非常に地温が低いために、有機物がほとんど分解されずに閉じ込められています。このためIPCC AR6では「過去数百年から1000年の時間スケールにわたり、永久凍土は炭素の吸収源(carbon sink)となってきた可能性が高い」と述べています。

 そしてIPCC AR6では、永久凍土に含まれる炭素量は1400PgC(PgC: Peta gram Carbon、10の15乗gの炭素、注1)程度と推定されています。ちなみに大気中の炭素量は 871PgC程度、陸上植物(地上にあり生存しているもの)の炭素量は450PgC 程度と推定されていますので、永久凍土には大気の2倍程度、陸上植物の3倍程度の炭素量が含まれていると推定されていることになります。

3.永久凍土の融解に伴い、有機物が分解される

 1000年以上の間、凍結した土壌に分解されずに閉じ込められていた有機物は、永久凍土の融解によって分解されやすくなります。一般に、有機物の分解によって、湿地などの酸素の少ない「嫌気的」環境ではメタンが放出され、酸素が十分にある「好気的」環境では二酸化炭素が放出されます。このため、産業革命後の人間活動による気温上昇によって、永久凍土が融解し、炭素の放出源(carbon source)となっている場所が確認されています。

 例えば、永久凍土が急速に融解している場所において、古い時代に凍結した炭素が分解した証拠や、河川に炭素が流出した痕跡、そして永久凍土が融解してできた湖からのメタン放出などが報告されています。このためIPCC AR6では、「現在、いくつかの永久凍土地帯は炭素の放出源となっている可能性が高い」そして「過去数十年間、いくつかの地域でメタン放出が増加してきた可能性が高い」と結論づけています。

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