本連載では永久凍土の話題をこれまで9回にわたってお届けしてきました。今回が最終回になります。今回は気候という観点から永久凍土の分布と歴史(変化)を見ていきたいと思います。

永久凍土はどのように分布しているのか

 さて、永久凍土はどんなところにあるでしょう。

 そうです、寒いところにあります。寒いところと言えば、緯度の高いところ。ですが、緯度が高ければそこに永久凍土がある、というわけではありません。この連載でも何度か紹介した下記の図1をあらためて見ていただくと、同じ北極圏南限(北緯66度33分。太い黒線)の付近でも、アラスカやシベリア(地図の5時から8時の方向)には広く永久凍土が分布していますが、北ヨーロッパ(地図の11時の方向)はそうでもありません。

 一方で、図1の地図には緯度が低い(北緯30~40度の間)のに永久凍土が広がっているところ(4時の方向の北アメリカ西部、9時の方向の東アジアや、11時の方向の西ヨーロッパ)があります。そして、グリーンランド(図1の1時半の方向)や南極大陸(図2)では永久凍土は陸地の縁にちょっと見えているだけです。さて、なぜでしょう。

図1:北緯30度以北・北半球の永久凍土帯分布。色が薄くなるに従い、実際に永久凍土のある場所は連続的から点在的になる。国際永久凍土学会が公開しているデータを基に著者が作製
図1:北緯30度以北・北半球の永久凍土帯分布。色が薄くなるに従い、実際に永久凍土のある場所は連続的から点在的になる。国際永久凍土学会が公開しているデータを基に著者が作製
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図2:南緯60度以南・南極大陸の永久凍土分布。白色は南極氷床、水色は海洋で、陸地の色のついた部分に永久凍土が存在する。赤(10m以上)と緑(10m以内)の点は、測温孔のある地点を表す(https://ipa.arcticportal.org/products/gtn-p/ipa-permafrost-mapより)
図2:南緯60度以南・南極大陸の永久凍土分布。白色は南極氷床、水色は海洋で、陸地の色のついた部分に永久凍土が存在する。赤(10m以上)と緑(10m以内)の点は、測温孔のある地点を表す(https://ipa.arcticportal.org/products/gtn-p/ipa-permafrost-mapより)
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 永久凍土とは、寒くて地面の下が2年間以上凍ったまま(より正確には、0℃以下が2年以上継続する地盤)のところでしたね(連載第1回:地球温暖化で融けている? 「永久凍土」に関する誤解を解く を参照)。ここで先の問題の答えを言うと、①永久凍土は寒いところにあるけれど、寒い場所すべてにあるわけでもない。また、②緯度が高くなくても標高が高いために寒くなる場所がある、そして、③まだ調べられていなくてよく分からない、の組み合わせになります。そのあたりの事情をこれから説明していきましょう。

永久凍土の分布を決める様々な要素

 気候とは、狭い意味では温度と雨(湿潤・乾燥)の状況を指して使いますが、季節変化、雪や氷の状況、地形、植生なども含めて気候(あるいは気候システム)ということがあります。この稿では気候をこの意味で使います。

 地球上で寒いところには、大ざっぱに言って2種類あります。1つは緯度の高いところ(南極、北極など、極に近いところ)で、もう1つは標高の高いところです。アラスカやシベリアは緯度の高いところに属します。

 一方、図1の9時方向、日本列島と似た緯度にある永久凍土の広がりは、チベット高原(ここを南極・北極に次ぐ第3の極という言い方もあります)で、これは標高が高いところに属します。高山の上の永久凍土(山岳永久凍土と言います)はヨーロッパのアルプスや北米大陸のロッキー山脈にもあります。そして、それは思ったよりももっといろいろなところに分布しています。アフリカのキリマンジャロやハワイ、南米のアンデス山脈といった熱帯(南北の回帰線以内)の高山で、また日本でも富士山や大雪山、また北アルプスの立山などの山頂付近で見つかっています。

 季節変化がほとんどない熱帯はちょっと特殊なので、話は後にしましょう。まずは、少なくとも夏と冬がある中緯度から極にかけての場合を考えます。端的に言えば、冬に十分に寒くなって地面が凍結し、夏にそれが融解してしまわないようなところが永久凍土の存在する条件になります。1年中、0℃以下の極寒の地をイメージされるかもしれませんが、シベリアの大部分のように森林が成立するほど夏が温暖(平均気温10℃以上の月がある)でも冬に零下何十℃となるような場所には十分に永久凍土が発達します。しかし、ヨーロッパ高緯度(図1の10時から11時の方向)では、北大西洋海流という暖流が空気を暖めるため冬があまり冷えずに、スカンジナビア半島の山岳域を除いて永久凍土はありません。

 冬に十分に気温が下がる地域でも、雪や氷が上を厚く覆っていると地面はよく冷えません。これはお布団をかぶったような状態なので、上の空気がうんと冷えてもなかなか地面にそれが伝わらないのです。

 逆に日が差さない向きの斜面(北半球では北向き斜面、南半球では南向き斜面)や、樹木やコケなどが地表面の上を覆っているところであれば地面が暖まりにくいので、そういうところでは凍土が維持されやすくなります。十分に寒くないと地面の下が凍らないので永久凍土はできないけれど、凍結した地面を維持するにはそれなりの条件が必要だということです。このようにいろいろな要素がせめぎ合って永久凍土の分布を決めています。なお、熱帯の場合は、夏冬の季節変化よりも昼夜の寒暖差が顕著で、永久凍土が見つかるとしたら、火口のくぼみや氷河の脇など、夜に冷えて昼に融けないところになります。

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