今回は、永久凍土地域においてどのような経済活動が行われているのかについて、ロシア東シベリアのサハ共和国を事例として紹介します。サハ共和国は、インドより少し小さな面積に、わずか100万人弱の人々が暮らしている地域です(インドは13億人を超えています!)。その広大な領土のすべてが永久凍土に覆われています。サハ共和国の経済活動の中心にあるのは鉱業、中でも石油・ガス開発が近年急成長しています。このような資源はロシアの財政を潤すだけでなく、日本もその開発に参加し、生産された原油は既に日本へ輸出されています。日本にとっても他人ごとではないロシア永久凍土における資源開発について詳しく紹介します。

図1:凍結する東シベリアの大地から北極圏の月の出を望む(撮影:原田大輔)
図1:凍結する東シベリアの大地から北極圏の月の出を望む(撮影:原田大輔)

鉱業がけん引する経済活動

 サハ共和国の経済活動は、他の北極域と同じように、大規模資源開発、伝統的経済(小規模家族経営)、公的サービス部門(公務、教育、厚生など)の3つのセクターが中心です。サハの域内総生産(GRP)を見ると、その50.6%は鉱業(鉱物資源採掘業)が占めており、製造業の比重は1.1%にすぎません(2019年)。サハ共和国のGRPは2014~19年に年平均2.9%成長しており、ロシアの国内総生産(GDP)成長率(0.9%)を大きく上回っていますが、その成長をけん引しているのが鉱業部門です(図2)。赤色で示した鉱業の寄与度が最も大きいだけでなく、黄色の建設は鉱業の生産・輸送施設の建設、緑色の運輸・通信は鉱産物輸送によるところが大きく、鉱業関連部門の貢献が絶大であることが分かります。

図2:サハ共和国の経済成長に対する産業部門別寄与度(単位:%、サハ統計委員会のウェブサイトから作成)
図2:サハ共和国の経済成長に対する産業部門別寄与度(単位:%、サハ統計委員会のウェブサイトから作成)
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 サハはダイヤモンド生産で知られてきました。ロシアは世界シェアが3割を超える世界最大のダイヤモンド生産国ですが、そのうちの9割ほどをサハ共和国が生産してきました(図3)。鉱業の出荷高の中で、05年にはダイヤモンド部門が74%を占めていましたが、その比重は、10年には5割を切り、19年には23%にまで減少しました。代わりに比重が大きくなったのが、石油・ガス部門です。同部門の比重は05年には3%にすぎませんでしたが、10年に27%となり、19年には47%となったのです。

図3:ダイヤモンド露天掘り鉱山「ミール」(撮影:飯島慈裕)
図3:ダイヤモンド露天掘り鉱山「ミール」(撮影:飯島慈裕)

 石油・ガス部門の割合の増大は、サハにおける原油生産の増加によるものです。サハの原油生産は09年ごろから急速に増え始め、16年に1000万トンを超え、20年には1600万トンとロシアの原油生産の2.6%を占めるに至りました。採掘される原油の9割以上が輸出されており、東シベリア太平洋石油パイプライン(Eastern Siberia Pacific Oceanの頭文字を取って「ESPO=エスポ」と呼ばれています)を通じて日本も購入しています。天然ガスについては、生産が増え始めたのは19年で、こちらも急増しており、「シベリアの力」パイプラインを通じて中国に輸出されるガスの供給源の1つとなっています。

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