永久凍土地域では、インフラストラクチャーがどのように造られ、メンテナンスされているのでしょうか? 今回は、地球温暖化に伴うと思われる永久凍土の融解により、近年になって顕在化しつつある構造物の沈下・変形・破損などへの懸念や今後の対応などについて解説します。

なぜ、それは突然倒壊したのか?:ノリリスクでのタンク倒壊事故

 2020年、5月29日。北極海にほど近いロシア・西シベリアの都市ノリリスク(Norilsk、図1参照)で、発電所用のディーゼル燃料タンクが突然倒壊しました(写真1)。ちょうどCOVID─19(新型コロナウイルス)の日本での感染拡大が話題を独占している時期でもあり、日本ではあまり報道されることはありませんでしたが、流出したディーゼル油2万トンあまりが周辺河川に流れ込みました(写真2、写真3)。それが北極海にまで及ぶ可能性も出てきたことから、自然環境への影響の大きさに配慮して、ロシア政府は6月3日、非常事態宣言を発令しました。しかしなぜ、そのようなことが起きてしまったのでしょうか? それは永久凍土の融解が原因であると考えられ、ロシア当局も同様の見解を示しています。
(出典:https://www.afpbb.com/articles/-/3287301?act=all

 なにしろ、この時期、この地方をこれまでに経験のないほどの熱波が襲っていたのです。

図1:ノリリスクの位置
図1:ノリリスクの位置
写真1:倒壊したと思われるタンク
写真1:倒壊したと思われるタンク
写真2:河川に流れ込んだディーゼル油
写真2:河川に流れ込んだディーゼル油
写真3:汚染された河川の航空写真。赤く見えているところが汚染箇所(出典:Clean-up Progress Update on the Accident at a Fuel Storage of Norilsk Nickel, Nornickel, June 9, 2020)
写真3:汚染された河川の航空写真。赤く見えているところが汚染箇所(出典:Clean-up Progress Update on the Accident at a Fuel Storage of Norilsk Nickel, Nornickel, June 9, 2020)

 図2はその時期の1カ月間の平均気温が、平年よりどれほど高かったかを示す等温線の記録です。これを見ると、ノリリスクの周辺は平年よりも12度以上高かったということを示しています。東シベリアにあるベルホヤンスクで2020年6月に記録された38度が、北極圏における観測史上最高気温として国連の専門機関の一つである世界気象機関に2021年末、認定されましたが、ノリリスクに限らず2020年のシベリアは35度を超える猛暑日も各所で発生していたものと考えられます。

図2:過去1カ月間の北半球の月間平均気温と気象異常のマップ(海抜気温の異常)(出典:<a href="https://meteoinfo.ru/anomalii-tabl3" target="_blank">https://meteoinfo.ru/anomalii-tabl3</a>)
図2:過去1カ月間の北半球の月間平均気温と気象異常のマップ(海抜気温の異常)(出典:https://meteoinfo.ru/anomalii-tabl3
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 年々、確実に気温上昇が続いているといわれるシベリアではありますが、このような異常高温が一体どのような現象をもたらしたのでしょうか?

 夏場の気温上昇は活動層厚(地表面近くの凍結と融解を繰り返す層)を大きくするとともに、地形によっては融解水が地下水として流出し、地盤の持つ熱容量が小さくなることもあり、さらに深いところまで融解しやすくなります。その結果、氷が融解することによる体積の減少や、融解水の流出に伴う沈下、さらには地盤強度の低下などが連鎖的に発生し、燃料タンクの支持層が崩壊したものと考えられています。なぜなら、凍っている地盤は、凍っていない状態よりも数倍から数十倍強度が高いからです。これは異常気温がもたらした構造物への影響の一例にすぎず、永久凍土地帯における気温の上昇は少しずつ、しかし確実に影響を与え始めていると考えられます。

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