しかし、中国の経済成長が減速した場合、中国共産党は警戒心を強めるだろう。党は独占的な権力の掌握を確実なものとするためにより過酷な手段を講じ、また、中国の様々な問題をアメリカやその他の国々のせいだとして声高に非難するだろう。

 中国共産党は、アメリカと自由世界に追いつき、追い越すために不健全な経済政策を展開してきた。逆説的だが、それが「中国の夢」に込めている勝利の物語を国民に届けることを妨げるかもしれない。中国には間違いがあった場合に国民のためにそれを是正するという民主主義に内在する能力も、平和的な不満の表明に対する寛容さもない。

 そのような中国が目の当たりにするものがあるとしたら、党に強く反発する動きだろう。党は2020年初めに新型コロナウイルスが発生したとき、対応に出遅れた。地方の幹部たちは当初、隠蔽を試み、続いて党に対する批判を抑えるためにぶざまな検閲を行った。これらは中国のシステムの弱さの指標である。

 将来、反対の機運が高まることを見越している党は、大急ぎで技術主導の警察国家を完成させようとしている。党はさらに関連の取り組みを加速する公算が大きい。そして、経済成長の勢いが鈍化し、党の指導部の不安が高まるにつれて、中国の対外政策と軍事戦略が南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島などの一触即発の場所で危険な対立をもたらす可能性がある。

 中国語の言い回しを使うなら「擦槍走火(銃を磨いている間に不注意で暴発すること)」、つまり偶発的な軍事衝突が起きかねない。それゆえアメリカと同盟諸国は、中国共産党に対して軍事力を行使しても目的を達成できないと納得させられるだけの意志と軍事的な能力を持たなければならない。

効果的な競争こそ対決を回避する

 アメリカとその他の国々は、中国に対するあらゆる非難は「中国の前進を妨げる」封じ込めを意味しているという中国共産党の決めつけに反論しなければならない。また、中国との競争を外交の面だけでなく経済活動で、さらには軍事の面でも効果的に進めることが対決に至らない最良の道だと理解する必要がある。

 2019年、崔天凱駐米大使はワシントンの中国大使館で開かれたあるイベントで講演し、アメリカの対中アプローチは中国の台頭を阻止し、「中国の夢」という国民への約束を否定することを目指していると指摘した。マット・ポッティンジャーは中国語で返答し、アメリカはそのアプローチの呼び方を従来の協力と関与から競争に変えたと説明した。彼は、名と実を正しく一致させることの大切さを説いた孔子の教えを引用した。「名不正、則言不順、言不順、則事不成(名前が正しくなければ、言葉は実態と一致しない。言葉が実態と一致しなければ、何事も成功しない)」。

 国民の権利を犠牲にして、あるいは他の国々の市民の安全や主権、繁栄を犠牲にして、あなたたちが十分な夢を達成することなどあり得ない――。競争が目指すものは、そのように習近平国家主席と中国共産党の指導者たちを説き伏せることである。

(訳=村井浩紀)

トランプ前大統領の元側近が米中対立の先を見通す

 本書はもともと、出版社や周囲からはトランプ政権高官としてその内幕を暴露する回顧録として執筆されることが期待されていた。だが、マクマスター氏は「我々の安全や自由、繁栄に突きつけられた最も重大な挑戦について読者の理解が深まるような本を書きたかった」という。
 34年に及ぶ米陸軍での経験、戦略家・歴史家としての見識を踏まえ、冷戦終焉(しゅうえん)後のアメリカの外交政策を検証、独善的な「戦略的ナルシシズム」に染まり、戦略上の失敗を重ねてきたと厳しく指摘するものとなった。米中対立が深まる世界の今後を見通す上で不可欠な歴史認識と、「戦場」としての世界のリアリティーをしっかりと伝えている。

H・R・マクマスター(著) 村井浩紀(訳) 日本経済新聞出版 4180円(税込み)

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