日米などの指導者は中国に三つの「ノー」を!

 中国は、その指導者たちが世界に押しつけたパンデミックによって引き起こされた景気後退からいち早く抜け出した。日本、アメリカをはじめとする民主主義の国々が自由で開かれたインド太平洋というビジョンを実現するためには、各国間でより幅広い経済・科学分野の協力が欠かせないことは明らかだろう。

 ただし、民主主義の国々にまず求められるのは、政治、ビジネス、金融のリーダーたちが中国共産党を助け、後押しすることを止めるという一致した決意である。日米などの指導者たちは「三つのノー」で合意できるだろう。

  • 中国共産党に機微技術が渡ってしまうような貿易・投資の関係を結ばない。
  • 中国共産党が人間の自由を抑圧し、技術で固めた警察国家を完成させることに手を貸すような投資はしない。
  • 短期的な利益と引き換えに、企業の長期的な存続を危うくするような知的財産の移転はしない。

 基本的に企業と株主は中国共産党との競争で何が問われているかを認識し、長期的な倫理上の要請、社会の期待と信頼に沿った決定を行うべきである。

 新型コロナウイルスのパンデミックによって露呈したことはほかにもある。日本、アメリカ、その他の国々が、中国のサプライチェーンに対して危ういほどに依存度を高めていたことだ。競争を怠った上に、慎重さを欠いて効率を優先してきたからだ。この教訓を踏まえて、蓄電池、レアアース、半導体といった他の重要なサプライチェーンでは見直しが実行された。しかし、慢心はまだ残り、競争の激しい他の分野での対応が遅れている。

 中国はグローバルな物流、データの標準化、デジタル通貨の流通、そして電子決済で圧倒的な影響力を追い求めている。日米間の協力の優先項目には、イノベーションの障壁の除去、研究開発の拡大、サプライチェーンの復元力(レジリエンシー)の改善、そしてデータやインターネットのプライバシーに関する国際基準の設定を含めなければならない。

 パンデミックは中国との経済的な競争だけでなく、軍事的な競争も加速させた。人民解放軍は台湾や南シナ海、東シナ海の国々の主権を脅かしている。我々に求められるのは、強力な軍隊を前方に配置して、同盟相手の国々を安心させることである。そして、中国やロシアが守りを固めて我々の接近を拒否すると宣言したがっている空間に我々が入り込み、競争する空間に変えることである。

 習と中国共産党の指導部は、自分たちがインド太平洋の全域で優位性を確立し、日本を孤立させ、アメリカに対して世界規模で挑戦できる、つかの間のチャンスが今、訪れていると考えているだろう。それゆえ、日本の力強い自衛隊と日米同盟を揺るぎないものにする強固なパートナーシップを示して、中国共産党・人民解放軍の指導者たちに武力を用いてインド太平洋に排他的な優位性を確立することはできないと分からせることが不可欠である。

 そして、日米にインドとオーストラリアが加わったクアッドの枠組みは、安倍晋三首相(当時)が2007年にインド議会で演説した際に提示したインド洋と太平洋の「ダイナミックな結合」というビジョンを推進するものとしてとりわけ期待される。安倍首相はこの演説からおよそ10年後、目指す先を次のように形容した。「太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧とは無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て豊かにする」(2016年8月、ケニアで開かれた第6回アフリカ開発会議での基調演説)。

 クアッドをはじめとする域内各国は、この目標の達成のために日本と足並みをそろえるべきである。

(訳=村井浩紀)

トランプ前大統領の元側近が米中対立の先を見通す

 本書はもともと、出版社や周囲からはトランプ政権高官としてその内幕を暴露する回顧録として執筆されることが期待されていた。だが、マクマスター氏は「我々の安全や自由、繁栄に突きつけられた最も重大な挑戦について読者の理解が深まるような本を書きたかった」という。
 34年に及ぶ米陸軍での経験、戦略家・歴史家としての見識を踏まえ、冷戦終焉(しゅうえん)後のアメリカの外交政策を検証、独善的な「戦略的ナルシシズム」に染まり、戦略上の失敗を重ねてきたと厳しく指摘するものとなった。米中対立が深まる世界の今後を見通す上で不可欠な歴史認識と、「戦場」としての世界のリアリティーをしっかりと伝えている。

H・R・マクマスター(著) 村井浩紀(訳) 日本経済新聞出版 4180円(税込み)

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