これらの無数の攻撃的な行動の原因がアメリカにあるとは考えにくい。それにもかかわらず、インド太平洋の諸国、そしてその先の地域の一部の指導者たちからは、「我々にワシントンと北京のどちらかを選ぶように強要しないでほしい」という声が繰り返される。しかし、すべての指導者たちは厳然たる事実に目覚めなければならない。目の前にあるのは、主権の維持か隷属かという選択肢である。

 第二の誤解は、中国との競争は危険に満ちていて、突き進むのは無責任でさえあるというものだ。「トゥキディデスの罠(わな)」が存在するからだという。台頭する国(中国)と現状維持の国(アメリカ)の間では紛争が起きる可能性があることを示す言葉である。

 中国共産党の指導者たちが「トゥキディデスの罠」のたとえを好むのは、受け身で協調に応じるか、それとも戦争かという誤った板挟みの構図を作り出すからである。しかし、透明性のある競争こそが不要に事態をエスカレートさせることを防ぐ最良の方策である。それは中国との協力を妨げず、むしろ可能にする。

中国共産党に対しては二つの誤解がある(写真:poo/Shutterstock.com)
中国共産党に対しては二つの誤解がある(写真:poo/Shutterstock.com)

 これら二つの誤解を正すことは、中国共産党が自由で民主的な社会の弱点とみなすものを競争上の優位性に変えるためにも不可欠である。そして、中国の巧みな抱き込み、強要、隠蔽の工作から防衛するために必要な集団行動への道を拓くためにも欠かせない。

習近平国家主席に対する誤解

 それでも、一部の人々はこれらの誤解にこだわり続けるだろう。短期的な利益や有利な投資のリターンを求めて中国に向かう根拠となるからだ。世界の投資家たちは中国共産党が民間への介入を強めても、それに臆することなく資金を中国企業の株式などに投じている。

 2021年には、海外から中国への新規の直接投資の金額が、アメリカへのそれを抜いて世界トップとなったことが明らかになった。間違ってウラジーミル・レーニンのものとされている言い回しに「資本家たちは自分たちの首を吊(つる)すのに使うロープまで売るだろう」というものがある。資本主義がライバルに手を貸し、自滅へと向かう姿を中国共産党の指導者たちは思い浮かべたのではないか。

 自由世界の多くのビジネス・リーダーや政治指導者たちは、自ら進んで騙(だま)されている。彼らが注意を向けているのは習近平国家主席が話していることであり、彼と中国共産党が実際に行っていることではない。

 人道主義者の習は、国境を越えて協力し合うグローバル・ガバナンスと法の支配の美徳を称揚するが、中国は国際機関から力を奪い、人間の自由を抑圧し、ウイグル族に対するジェノサイドを行っている。

 環境保護主義者の習は、2060年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすると宣言する。ところが、中国は国民のおよそ80%を安全とされるレベルをはるかに超える環境汚染にさらし、南シナ海では軍事拠点となる人工島を造成するために生態系を破壊し、世界各地で毎年多数の石炭火力発電所を建設している。

 自由貿易主義者の習は、スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラムで貿易・投資の自由化について語るが、中国は借り手を苦しめる略奪的な融資や強制労働、国庫から企業への補助金、産業スパイなどに関与している。

 ロマンティックな習は、国際的な「運命共同体」を構想するが、中国はその高圧的な軍事・経済活動に影響されやすい国々を着々と隷従させている。習の発言は真実とは正反対である。それを受け入れることは、中国共産党の壮大な野望である国際秩序の新しいルールを作り、自分たちの協力者を「吊す」ことを手助けするに等しい。

習近平国家主席に対しては多くの誤解がある(写真:Frederic Legrand-COMEO/Shutterstock.com)
習近平国家主席に対しては多くの誤解がある(写真:Frederic Legrand-COMEO/Shutterstock.com)

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