膨らむ日本人の悩み

 内閣府は毎年実施している「国民生活に関する世論調査」で、「日ごろ、悩みや不安を感じているか、それとも感じていないか」と聞いている。バブル末期の91年に「悩みや不安を感じている」と回答した人の割合は46.8%だった。それがバブルが弾けるとともに上昇基調に転じ、2019年は63.2%に上った。

 「悩みや不安を感じている」と回答した人にその内容を聞いてみると、最も割合が多かったのが「老後の生活設計」で56.7%だ。以下、「自分の健康」の54.2%、「家族の健康」の42.4%、「今後の収入や資産の見通し」の42.1%などが続く(複数回答)。

 景気の悪化により国の税収が減って、年金、医療、介護などの社会保障サービスのレベルが落ちていく恐れがある。給料は増えていかず、定年まで会社が存続するかも怪しい。考え始めれば、不安は膨らむばかりである。

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 国際的に見ても日本人の不安感は強い。内閣府が18年に若者を対象に実施した意識調査でもそのことは如実に表れている(18年度版「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」から)。

 調査では日本・米国・英国・ドイツ・フランス・韓国・スウェーデンの7カ国に住む13~29歳の男女に対し、現在と将来の仕事上の不安について、12個の質問をしている。そのうち実に10問で、日本人は「不安だ」と答える人の割合が7カ国中最多だった(「どちらかといえば不安だ」を含む)。

 具体的には「働く先での人間関係」について「不安だ」とした日本人は76.0%、「仕事と家庭の両立」については69.5%、「働く先の将来」は63.8%などという具合だ。「きちんと仕事できるか」など残りの2問でも、「不安だ」の割合は7カ国中2番目に多かった。

 人々の不安感を左右する遺伝子とされるのがセロトニン運搬遺伝子である。セロトニンは神経伝達物質の一種であり、少ないと不安を感じやすくなる。

 もちろん遺伝子の配列が人格を規定するわけではなく、後天的な環境や経験が個人の人格形成に大きく関与している。ただ集団で見た場合、遺伝子の違いから一定の傾向が表れるのも確かだ。

 その一つがセロトニン運搬遺伝子で、SS型、SL型、LL型の3つのタイプに分かれる。SS型の人は最も不安を感じやすく、LL型は最も感じにくい。SL型はその中間となる。

 鳥取大学などの調査によると、SS型の日本人は65%に上る。SL型を加えると97%に達する。SS型の人もSL型の人も、ネガティブな情報や体験に悲観的に反応しがちであることが米英の研究者らによる実験などから分かっている。

 残りの人は不安をあまり感じないLL型で、日本には3%しかいない。中国でLL型は15%、英国(白人)は23%、ドイツは36%、南アフリカ(黒人)は68%に上ることを考えれば、日本人は世界的に見ても不安を抱きがちな国民だと言える(南アフリカ・ウェスタンケープ大学の研究グループの論文からデータを引用)。

 この傾向は多発する自然災害が関係していると考える研究者は多い。

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