指をくわえて賃下げを傍観

 1990年代前半にバブル経済が崩壊して以降、労働者の待遇を悪化させてきた経済界に対し、労働界はほとんど無力であった。

 2020年の1時間当たりの賃金は、ピークだった23年前の1997年と比べて8.8%も減った(経済協力開発機構=OECD=のデータから計算)。先進国で23年前と比べて賃金が減ったのは日本だけである。この間にドイツ・イタリアでは1時間当たりの賃金が7割、フランスは8割増え、米国・英国は2倍になった。

 2020年の平均年収を見ても日本は約440万円と、23年前とほぼ変わらない。英国・フランスの平均年収は日本の1.2倍、カナダ・ドイツは1.4倍、米国は1.8倍の水準に達している(購買力平価ベース、OECDのデータから編集部でドルを円に換算)。15年には韓国にも抜かれ、現在では約40万円の差がついた。

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 日本企業が人件費を削って確保した資金で、成長に向けて生産設備や研究開発に投資しているのであれば、労働者もまだ救われる。だが経営陣は「不測の事態に備える」として、せっせとキャッシュをため込んでいる。手元にある現預金の規模は膨れ上がっており、日本企業全体で20年度に259兆円にも上った。名目国内総生産(GDP)比で48%に達する。

 会社がうずたかく死蔵させているキャッシュを、賃上げの原資として吐き出させたほうが労働者のみならず、日本経済にとってもプラスだ。組合は経営陣を動かすために、ストライキ権という強力な武器を持っている。

 だが各社の組合が、憲法で保障された団体行動権(スト権)を封印して久しい。半日以上のスト件数は、過去最多を記録した1974年の5197件から激減しており、2020年はわずか35件だった(厚生労働省調べ)。

 各国の専門家による国際プロジェクト「世界価値観調査」などが17〜20年に実施した面接調査によると、民間企業の労働者で「ストに参加したことがある」と答えた日本人の割合は3.2%しかいない。カナダの14.2%やフランスの8.5%をはじめとして、主要7カ国(G7)の中では最低だ。

 ストに参加したことはないが、「(今後)参加するかもしれない」と答えた日本の労働者の割合も22.6%と、米国の50.4%やカナダの44.5%などから引き離され、G7で最低である。労働者の闘争意欲がここまで低いと、春闘の団体交渉の席で会社側から「どうせストなんてできないだろう」とみくびられても仕方ない。今回、本間氏に取材を申し込んだ背景には、こうした労働界の体たらくがある。

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