お菓子箱から金貨がザックザク

 「30年以上もの長期にわたり、誰一人として(中略)声を上げる勇気を持てなかったことは、全くもって理解し難い」。関西電力の金品受領問題を調査した第三者委員会は、こう断罪した。

 2019年9月、国税当局の指摘で関電の幹部らが福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)から金品を受け取っていた事実が発覚した。関電側は見返りとして森山氏が関係する企業に工事を発注していた。

 第三者委員会の調査によると、森山氏から金品を受領する慣行は1987年に始まり、2010年代まで続いた。金品の受領者は計75人、総額約3億6000万円相当に上った。関電の岩根茂樹・前社長も金品を受け取っていた一人だ。

 社長を引責辞任する前の19年10月、岩根氏は記者会見で、自身が金品を受け取った様子を次のように説明している。「社長就任の祝いをいただいたので、お菓子と思っていたら、その下に金貨が入っていてびっくりした」

 過去に金品を返そうとした幹部は少なくなかったが、森山氏から「わしの気持ちをなぜ受け取れないのか」と激高されるなどしていた。このため岩根氏は萎縮し、金貨を会社の金庫にしまい込んだ。こうやって悪習は代々の幹部に継承され、「世に知られたくない関電の秘密を握ったモンスターと言われるような人物をつくり出してしまった」(第三者委員会)。

 金品受領の慣行に対して、社内で不満をこぼす幹部も少なからずいた。高浜原子力発電所の所長(当時)は80万円分の商品券と仕立券付きスーツ生地3着分を受け取っていた。この所長が11年1月、上司らに送った電子メールは、不満を抱いた幹部の心境をあますことなく伝えている。

 「申し訳ありませんが、また愚痴を言わせてください。問題はありませんので、安心してください」と切り出し、自身が関係する企業への追加発注をしつこく要求する森山氏への憤まんやるかたない思いをつづっている。

 「『礼を示せ』と執拗に要求され(た)」「年末に病院にお見舞いに行ってもその要求、元日に電話してもその要求」「散々嘘つき呼ばわり」「昨日は『振り回したろか』と(言われた)」「『あの約束を忘れたら承知せんぞと、明日電話してこい』と(命じられた)」

 愚痴を吐き出した上で高浜原発所長は、「いつまでこんな対応をしているのか、大いに疑問」と書き込んだ。だが上司らに問題提起するのかと思いきや、そんな勇気はなかった。

 続けて、「以上、愚痴でした。これで私のガスも抜けますので、明日以降、また普通に対応しますので、ご心配はいりません。愚痴を聞いていただき、ありがとうございました」とメールを締めくくった。

 額面通り受け止めれば「ガス抜きできたので、もう大丈夫」ということになる。だが、同時に「最後まではっきりとは口にしないけど真意を悟ってほしい。『こんなことは終わりにしよう』と言ってほしい」と、上司に訴えているようにも読めてしまう。

 関電を支配していたモンスターは実は森山氏ではなく、幹部たちがつくり出した、主体性のない甘えに満ちた「空気」だったのではないか。

 関電幹部らは何かを言いたげにお互いを見つめながら、30年以上も牟田口・河辺会談を続けていた。

日本人が以心伝心できる謎

 日本は、メッセージの受け手にその真意を推察させる「ハイコンテクスト」な国だと論じたのは、20世紀後半に活躍した米国の文化人類学者、エドワード・ホール氏だ。

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