業界や国など大小さまざまな集団で起きた村八分騒動を2回にわたって紹介してきた(「記者も被害、大分県の村八分騒動と東芝没落が暗示する未来」と「『私を村八分にした国交省』元経営者の怒りと官僚国家の正体」)。「村八分事件簿」の最終回となる今回は、最も身近な職場という集団で起きた騒動に迫る。ロシアのプーチン大統領がウクライナ攻略で苦戦している原因に通じる、日本企業の悪習が見えてくる。

 浜田正晴氏がオリンパスを定年退職したのは2021年春だ。「退職の際、同僚たちから惜別のメッセージを寄せた色紙をもらいましてね」と、浜田氏は晴れやかに語る。仕事仲間から好意的に送別されるなどということは、職場で白眼視されていた当時は考えられないことだった──。

オリンパス元社員の浜田正晴氏は内部通報をきっかけに閑職へと追いやられた。異動の無効を求めて最高裁まで闘い勝訴。公益通報者保護制度の象徴的な存在となった
オリンパス元社員の浜田正晴氏は内部通報をきっかけに閑職へと追いやられた。異動の無効を求めて最高裁まで闘い勝訴。公益通報者保護制度の象徴的な存在となった

 「だから、やる気がないんだったらいいよっ! おまえっ!」

 その日も浜田氏は、会議室で上司から罵倒されていた。ことの発端は浜田氏の内部通報だ。07年、当時の上司らが、取引先から営業秘密を握る社員を引き抜いていることを知り、「取引先の信頼を損なう」として社内の窓口に通報した。ところが窓口の担当者は問題の解決に乗り出すどころか、内部通報の事実を当の上司に漏らしてしまう。怒り狂った上司らは定期的に浜田氏に罵詈(ばり)雑言を浴びせた。

 浜田氏の同僚たちは、組織の上層部が浜田氏を追い込んでいることを敏感に感じ取り、離れていった。浜田氏は「職場での距離は物理的に近くても、心理的には3kmぐらい離れているように感じた。村八分のような状況に陥った」と語る。

 会社が裁判所で「浜田氏の名誉を回復する社長メッセージを社内に周知する」という和解内容を受け入れる16年まで、職場では肩身の狭い思いが続いた。

 「内部通報なんてしない方がよい」と達観するのは、東京都内で食品メーカーに勤める剣崎美子氏(仮名)だ。剣崎氏は1年余り前、会社の取締役が多数の部下にパワハラを働いていることを社内の窓口に通報した。

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