国土交通省が所管する港湾関連の業界で、村八分に遭った元経営者がいる。天下りの仕組みに異を唱えたことが、国交省幹部の逆鱗(げきりん)に触れた。残念ながら官民が築き上げた業界には、国の法律より、村のおきてを重んじる前近代的体質が根付いていた。
国家と村社会の類似性を検証した前回に続き、今回はより身近な業界という集団にこびりつく村社会的体質を浮き彫りにする。
国土交通省からの圧力で、自らが創業した建設コンサルティング会社、地域開発研究所(RDC、東京・台東)を追われたとして、島崎武雄氏が国家賠償を求めていた控訴審判決が2019年4月にあった。東京高裁は圧力を認め、一審の東京地裁判決を覆して、国に約530万円の支払いを命じた。国は上告を断念し、島崎氏の逆転勝訴が確定した。
それでも島崎氏の心の傷はまだ癒えていないように見えた。千葉県柏市のファミリーレストランで対面した島崎氏は悔しそうに、「国交省から村八分にされました。まさに前近代の村社会でしたね」と切り出した。

島崎氏が所属していた業界は、国交省港湾局を頂点とする「港湾ムラ」だ。港湾局は港湾の整備などに関して年間数千億円に上る予算規模の公共事業を差配しており、その恩恵にあずかろうとする多数の公益法人や民間企業を率いている。
島崎氏が社長を務めていたRDCも、ウオーターフロント地区の調査などを請け負ってきた。だが突然、村八分の憂き目に遭うことになる。
「島崎の辞表を持ってこい。さもなければ、RDCに業務は発注しない」
島崎氏の部下が国交省の幹部からそうすごまれるほど、港湾ムラで厄介者扱いされるようになったのは、島崎氏が国交省による公共事業の発注方法に疑問を抱いたのが発端だ。
国交省は退職者の天下り先となっている公益法人に、長年にわたって随意契約で公共事業を発注してきた。だが実際に業務を遂行しているのは、公益法人の再発注先となるRDCのような民間企業であることが少なくない。
公益法人が中間搾取し、民間企業の経営を圧迫していると考えた島崎氏は、天下り先を無駄に温存するような発注の実態を国会で追及してもらおうと、水面下で国会議員に接触する。しかしその動きを察知した国交省港湾局の幹部らはいきり立った。報復として、公共事業の発注業務を現場で担っている全国の出先機関に「RDCには発注するな」と指示を出した。指示は出先機関から公益法人へと伝達され、業界内で周知が徹底された。
RDCに対する村八分の始まりだ。RDCの社員は営業のために訪ねた先々から「御社に仕事は出せません」と告げられ、会社は存続の危機に立たされた。
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