東芝の経営陣が株主総会で外国投資家の影響力を排除しようとしていた。伝説的投資家のジム・ロジャーズ氏は、「日本人は外国のことが好きではないからね」と諦め顔だ。こうした内向きな国民性が日本経済の足を引っ張っているという。私たちはそこまで排他的なのだろうか。検証すべく、大分県の山村に向かった。

 「村ハチブは村の制裁として村づきあひを絶ち外すことである」(柳田国男編『山村生活の研究』民間伝承の会、1937年)──。

 大分空港からクルマで1時間余り。山あいを走る国道のカーブを抜けると、家屋がポツリポツリと立つ集落が現れた。ハンドルを握る佐竹青蔵氏(仮名)は助手席の記者に向かって、寂しそうに「ここが私の生まれ育った八つ葉村(仮称)です」と言って、アクセルを緩めた。

 田んぼ、神社、民家……。山村の風景が車窓をのどかに流れる。佐竹氏に対する陰湿な村八分が続いているとは、にわかには信じられない。

 まして記者にも火の粉が降りかかるとは、思ってもいなかった。集落の写真を撮るために、1人でクルマから降り立った時、八つ葉村の本性がむき出しになった。

村民らが自分を村八分にした八つ葉村(仮称)を眺める佐竹青蔵氏(仮名)。一部をモザイク加工した
村民らが自分を村八分にした八つ葉村(仮称)を眺める佐竹青蔵氏(仮名)。一部をモザイク加工した

山村に響く叫び

 「何の用事!?」

 興奮した高齢の女性が死角から現れ、詰め寄ってくる。もう1人の高齢女性が遠巻きにこちらの様子をうかがっている。

 クルマで村に到着した当初から、立ち話をしていた高齢女性2人がこちらに視線を向けていたことには気づいていた。その時から私たちは監視されていたのだろう。記者に迫ってきた高齢女性は、「ここは私んとこの土地! 通らんといて! こっちやろ、こっち!」と叫びながら、記者の通行を妨げようとする。

 何とか写真を撮り終えて急ぎクルマに戻ると、運転席の佐竹氏が「あの人は村の自治区長だった剛力番太さん(仮名)の奥さんです」と教えてくれた。

 国の交付金を巡って剛力氏らと対立した佐竹氏は、ある日、村人の1人から「あんたとは付き合いせんことに決めたから」と告げられた。知らぬ間に村民らは寄り合いを開いており、共同で絶交することを決めていた。佐竹氏と口を利かないのはもちろんのこと、自治区のメンバーからも外し、会合や行事に参加させず、市報なども配布・回覧しないという容赦のない村八分が始まった。

 苦境を打開しようと、佐竹氏は慰謝料などを求めて剛力氏ら村八分を主導した歴代の区長3人と市を提訴。2021年5月、大分地裁中津支部は「社会通念上許される範囲を超えた『村八分』」を認定し、3人に合計110万円の支払いを命じる判決を下した。

 原告と被告の双方が控訴せず判決が確定しても、いまだに佐竹氏は村のつまはじき者だ。一緒に行動していた記者までこの扱いである。

 江戸時代にタイムスリップしたような村が現存するという事実に、多くの読者はあぜんとするに違いない。特に近代合理主義に基づいて発展してきた産業界に身を置く者であれば、なおさらだろう。

 ところがよく見れば、産業界にも官民が守ってきた秩序に反する者を村八分にするような因習が存在する。この村社会的な体質が、日本経済の足を引っ張っている恐れがある。

 これから3回にわたり、国家・業界・職場という大小さまざまな集団と、八つ葉村との類似性を検証していこう。それは明治維新から約150年を経ても、今なお近代化しきれていない産業界への警鐘でもある。

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