東京での五輪・パラリンピックの開催が決まった2013年9月、日本は祝賀ムード一色となった。しかしその後、大会エンブレムを巡る騒動を皮切りに、国立競技場建て替え計画の白紙撤回、大会経費の増大、大会組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視発言、開会式の演出家らの辞任・解任など、これでもかと言うほど問題が噴出した。極め付きとして今、汚職と入札談合疑惑が持ち上がっている。東京への招致に成功した10年前、誰がこんな大会になると予想しただろう。残念ながら、現実を直視するほかない。組織委の元幹部らが大会を総括する。

前々回前回から続く「汚れた五輪」の連載は今回が最終回です)

「疑惑にまみれ、五輪の価値を損ねた」

雑賀真(さいか・まこと)氏
雑賀真(さいか・まこと)氏
組織委の元総務局長兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)。東京都職員として長く福祉行政などに携わった経歴を持つ

 私は東京都の職員として、招致の段階から五輪関連の業務に関わってきました。招致に成功し、2014年に組織委が発足すると、東京都から出向して、組織委の総務局長兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)を務めました。15年に大会エンブレムの審査過程で不適切な対応があったことが明らかになったときには、同じような問題を繰り返さぬよう、事務局としてガバナンスの改革に取り組みました。

 具体的には、意思決定プロセスの明確化と事業の進行管理を行うために経営会議を設置するとともに、監査部門を事務総長の直轄とし、けん制機能を強化しました。このほかにも法務課を法務部に格上げし、重要な案件はすべて法的に問題がないかチェックする体制を整えるなどしました。

 しかし私が組織委を離れた16年以降になりますが、汚職や入札談合疑惑が発生してしまいました。ガバナンスを強化したのに、なぜ防ぐことができなかったのか、正確なところは分かりません。ただ思い当たる節はあります。

「寄せ集めの集団、統制しがたく」

 組織委はその性質上、もともとガバナンスが容易でない組織でした。一般的な会社や団体であれば、その組織が自分たちで人員を採用して、給料も支払います。ところが組織委は違います。五輪に関係しそうな企業や役所に人員の出向をお願いし、給料も基本的に出向元が負担していました。また組織委は永続的な組織ではありません。五輪が終われば解散するので、数年以内に出向元に帰るのだという意識が職員たちにあったことは否めません。

 要するに組織委はそれぞれの分野に関する専門的な知識を持つ者の寄せ集めの組織でした。隣の部署が何をしているのか、場合によっては同じ部署内でも仲間が何をしているのかが、分かりづらい面がありました。

 例えば大会の警備を計画していたのは、主に組織委の警備局の中にいた警視庁からの出向者でした。警備上の秘密も多く、共有されない情報がたくさんありました。またスポンサー契約を手掛けていたのは、主に組織委のマーケティング局にいた電通出身者たちです。電通出身の職員は、スポンサー企業との守秘義務契約に基づき、契約の内容を明らかにしていませんでした。そうした不透明な構造がある中で、スポンサー契約を巡る汚職事件が起きてしまいました。

 組織委が職員を直接雇用していたら、組織内の透明性や一体感をもっと高められたかもしれません。実際、12年のロンドン五輪など海外の大会では、組織委が職員を雇用するのが一般的です。4年ごとに組織委を渡り歩く「五輪のプロ」がいて、彼らを雇っています。しかし彼らは英語で仕事をしています。日本語でのコミュニケーションが必要な東京五輪の組織委で、五輪のプロを採用するという選択肢は現実的ではありませんでした。だからこそ、ガバナンスには一層力を入れる必要があったのに、不祥事を許してしまいました。組織委の元CCOとして、五輪開催に期待してくれた方に対して申し訳なく思っています。

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