電通やKADOKAWA、AOKIホールディングス(HD)には、威光を放つ創業経営者やOBに逆らえず、結果的に五輪汚職に加担した人々がいた。自分が同じ立場なら逆らえると思っていないだろうか。前回も示した通り、私たちは権威に弱い生き物だ。ヒトの心に潜む「服従本能」を甘く見てはならない。
紳士服大手AOKIHDの元幹部らの裁判が2022年12月22日、東京地裁で始まった。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)の理事だった高橋治之被告に賄賂を支払ったとされる出版大手KADOKAWAなど5社のうち、先陣を切る形での初公判だ。贈賄罪に問われたAOKIHD元会長、青木拡憲被告の傍らに、84歳の青木氏よりずっと若い男性の姿があった。
上田雄久被告、41歳。
上田氏がAOKIHDに入社したのは00年代半ばだ。AOKIHD傘下で紳士服店を展開するAOKIでスピード出世し、20年には38歳の若さでAOKIの社長に就いた。
上田氏が順調に出世の階段を上っていた17年、青木氏らから組織委の理事だった高橋氏の会社に、コンサルタント料の名目で月々100万円の支払いが始まった。組織委理事としての立場を利用して、スポンサーの選定や契約の迅速化、公式商品の審査の迅速化などで便宜を図ってもらうための賄賂だったと検察は見なした。青木氏や上田氏は初公判で、こうした検察の起訴内容を認めた。

「ダメ元でお願いしろ」
青木氏の要望を高橋氏にたびたび伝えていたのが上田氏である。上田氏は青木氏から「100万円払っているんだから、(高橋氏に)ダメ元で何でもお願いしてみろ」などと命じられていた。上田氏は内心で「五輪という公正・中立な場で、当社だけが有利な取り計らいを受けることは許されない」と後ろめたさを感じていたが、青木氏に対して「依頼をやめるべきだ」と進言する勇気はなかった。初公判で開示された供述調書などからはそんな複雑な心情がうかがえる。
AOKIHDの創業者であり、当時は現役の会長でもあった青木氏の権威に、上田氏は萎縮したのかもしれない。今回の五輪汚職には、そんな「権威への服従」という構図があちらこちらで散見される。
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