2022年は食料品の値上げが相次いだ。背景には、世界的なインフレ、円安基調、原材料や輸送コストの高騰、天候不順などが複雑に絡み合う。特に価格が大きく変動したのが食料油や小麦粉だ。農林水産省によると、21年度の日本の飼料を含む穀物全体の自給率は29%。供給熱量ベースの総合食料自給率は38%であり、30年度までに45%にすることを目標に掲げている。輸入に頼る日本は、海外勢に「買い負け」すると食糧危機に陥りかねない。グループで日本一サイロの収容能力を誇る昭和産業の新妻一彦社長に、日本の食料安全について聞いた。

22年は小麦や食用油など、食品の価格改定が話題になりました。どのような環境の変化が起こっているのでしょうか。
新妻一彦社長(以下、新妻氏):大きな流れとしては、まず21年に北米の天候不順で穀物類が不作になり、小麦や菜種の価格高騰が始まりました。次に、穀物需要の構造が変化しました。脱炭素化社会が言い立てられ、穀物を使ったバイオ燃料の関心が高まり、新たな穀物需要が生まれたんですね。これにより小麦や飼料用の穀物の価格高騰が起こり始めた。
22年に入っても価格高騰は続きました。2月にはロシアのウクライナ侵攻が加わって、穀物価格は歴史的な高値を付けます。ウクライナとロシアは小麦やひまわり油などの輸出大国です。我々も価格改定を進めざるを得なかった。この出来事が大きなターニングポイントになったと思っています。
穀物に限らずエネルギーも値上げしていますね。世界的なインフレが22年に始まりました。日本は円安・ドル高で輸入と調達コストが上昇しています。食品業界全体がコストアップに苦しみ、12月末までに2万1000品目近くの値上げが進んでいるのが実態です。
避けられない値上げ
食用油は21年3月以降に6回の価格改定を実施しています。
新妻氏:こんな小刻みに、それも大幅な値上げをしたのは初めてです。4月から始まる年度予算は、前年の12月ごろに原料、為替、海上運賃など全体の市況を勘案しながら予算を組みます。しかし、この前提条件が全て覆った。見直し修正を繰り返す中で、原料高や為替など様々要因が絡んで、値上げをお願いせざるを得なかったのです。
為替予想は、22年1月が1ドル=114~115円でしたが、10月には151円という32年ぶりの円安を記録しました。現在は145円を1つの指標としています。原料では、大豆の取り引き価格は22年1月から大きく変わりませんが、以前から比べるとかなり高い水準です。一方、菜種は21年1月に1トン当たり約700カナダドルでしたが、最高値は1200カナダドルほどに上昇しました。
原料価格は、一時からはピークアウトしたと思っています。ただ、歴史的には高止まりしている。それはウクライナの問題、バイオ燃料化という新たな需要、天候相場といった数々の要因に影響を受けています。
昭和産業はグループでサイロの収容能力が日本一です。合計約70万トン収容できる大型サイロということですが、日本の穀物需要をどれくらいの期間支えることができるのでしょうか。
新妻氏:穀物によるのですが、日本の小麦需要は年間約500万トン強となります。当社の保有するサイロの約70万トンなので約7分の1ですね。なので約2か月分となります。
国は製粉会社などに約2カ月分の小麦を備蓄させています。日本の指定備蓄品目は「小麦」「飼料用トウモロコシ」「米」の3品目です。年間で一番値上がりした食用油は、原料となる大豆や菜種を備蓄する制度がありません。だからダイレクトに取引価格の上昇が商品価格に反映されるのです。
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