「日銀が保有する巨額の株式ETF(上場投資信託)を外部の基金に移せば、ガバナンス強化に役立てられるし、配当を様々な社会事業の原資にできる」――。渋沢栄一氏の玄孫で、シブサワ・アンド・カンパニーの代表および独立系運用会社コモンズ投信の創業メンバーである渋沢健会長に、市場の立場から見た日本企業の活路について聞いた。

渋沢 健(しぶさわ・けん)氏
渋沢 健(しぶさわ・けん)氏
1961年生まれ。87年UCLA大学でMBA取得。米系投資銀行でマーケット業務に携わった後、96年に米大手ヘッジファンドに入社。2001年に独立してシブサワ・アンド・カンパニーを創業。07年コモンズ株式会社を創設(08年コモンズ投信に改称)。22年10月にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)議長の特別顧問およびIFVI(International Foundation for Valuing Impacts)の理事に就任。

政府の「新しい資本主義実現会議」で、日銀が保有する巨額の株式ETF(上場投資信託)について、出口に向けた提案をされました。

渋沢氏:私は日本銀行のETF購入拡大について、当初から批判的です。日銀は「リスクプレミアムを下げる」と説明していましたが、一般国民の理解できる説明になっているとは思えません。実際に数年間のリスクプレミアムを検証して(やらない場合と比べ)差があったのかというとそれもクエスチョンマークです。

 経済社会が崩壊した場合に「最後の買い手」として中央銀行が株式を購入することは、経済社会を安定させる手段として理解できますが、お金を供給する手段として恒常的にやる説明としては足りないと思います。

 理由は簡単で、将来のロングテールリスクを抱えることになるからです。下落したときのコンティンジェンシープラン(不測の事態が起きた場合の備え)が全くできてないようにしか思えません。国債は償還期限があるのでじっと我慢すれば自然にエグジット戦略になりますが、株式はじっとしていても出口戦略はありません。日銀のバランスシートが民間企業の自己資本とは違うのは当然分かりますが、通貨の番人がそういうリスクを抱えていていいのか。

 例えば2022年に一気に進んだ円安は、米国と日本との金利差がもたらしたドル高です。いずれ米国景気が鈍化すると考えれば天井があるでしょう。ただ、何かのきっかけで、金利差ではなく、円の通貨としての信用がなくなってしまえば、円安のメドのレベル感が全く見えません。私の元上司の藤巻建史さんが何十年間と唱えている、「円暴落のロングテールリスクが近づいている」感じがしてしまいます。

 また、日銀はアセットオーナーとしてガバナンスをきちんと発揮させられないこともあります。日銀は日本株の間接的なオーナーとして最大で、中に浮いたガバナンス(統治)の票(議決権)が、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を上回る約50兆円分もあるわけです(編集部注:22年9月末時点で48兆208億円)。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4091文字 / 全文5115文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「ニッポンの活路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。