極端な例ですが、人口が減って高齢者が増える中で、動けない人を病院に運ぶための車も動かせないという話になったらそれは本末転倒です。そういう点まで視野に入れて、幅広い社会政策と一体のものとしてカーボンニュートラル政策をやるのが重要なんじゃないでしょうか。大企業が世界における自分たちの競争戦略として考えるのはいいと思いますが、国全体でみると競争戦略だけではなく、どのようにして安心かつスムーズに移行していくかという点は非常に大きな仕事だと思います。

科学の成果が取り入れられつつある

気候変動問題について、今では科学的なデータを踏まえた議論も増えてきましたが、以前は両極端の感情的な論争になっていた印象もあります。

三村氏:科学者が「科学の研究の結果、将来は確実にこうなります」ということはありえないわけです。なんとなくぼやっとした言い方になる。ところが人々の記憶に残るのは、もっと衝撃的な事実とか、代表的ではないかもしれないけど極端な現象とかなんですよね。

 気候変動に関してずいぶんいろんなシンポジウムとか講演会で話しましたけど、そのときは「大変だね」と聞き手側が思っても、それがいろんな行動につながるようなところまで熱量が高まるということはありませんでした。

三村氏はカーボンニュートラルへの移行を安心かつスムーズに進めることが重要だと訴える
三村氏はカーボンニュートラルへの移行を安心かつスムーズに進めることが重要だと訴える

 今はそうしたレベルにも達しつつあるとも思うんです。19年10月の台風19号は我々にとって転換点になったと思っています。静岡県から本州に上陸して福島県に抜けたんですが、台風が通った下のほとんどの河川で堤防が決壊したんですよ。140カ所も。

 それはたまたまどこかに不備があったということではなく、我々が積み上げてきた防護水準が超えられたという意味です。日本全体の防護水準を超えるものが起こる時代に入ったと。

 その翌年に国土交通省は気候変動を踏まえた治水計画、海岸保全計画というのを作り直しました。そこでは「過去一番大きかった洪水に合わせて堤防を作る」という方針を「将来予測に基づいて作る」と変えました。科学の成果を現実に取り入れようという動きですね。そういう変化は確実に現れつつある。あとは現実が進むのが早いか、我々が準備するのが早いか、という競争です。

この記事はシリーズ「ニッポンの活路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。