企業単位では50年カーボンニュートラル宣言など、いろいろな動きは出ていますが、それらに横串を通すには各自治体が音頭を取りつつ、企業や住民らを巻き込んでいく必要があると。
三村氏:そう思いますね。地域の中小企業の経営者も自分たちの将来がかかっていて、すごく強い危機感を持っています。でも、何から手を付けていいのか分からない場合が多い。サプライチェーン(供給網)全体でのCO2排出量を考えたときに、自社排出量が少ないケースも多々あります。
気候変動のリスクを物理面と経営面の両方から考えて、戦略を作る。そうした流れは非常にいいことですが、それができるのは大きな企業です。カーボンニュートラルに向けたリソースも能力もない中小企業が各地域で集まってどういう対応ができるか。やっぱり自治体や経営者協会、大学なんかの力が必要なんじゃないでしょうか。そのときに、より多くの関係者を巻き込む上で自治体の役割が重要なんです。
競争だけじゃなく社会のあるべき姿も考えよう
カーボンニュートラルへの取り組みは欧米が先行し、日本が出遅れている印象があります。
三村氏:個々の企業や日本の経済をしっかりさせる意味では競争的な視点も非常に重要ですが、もう少し社会全体のあるべき姿を考えるという視点を持つことも重要だと思います。大企業は競争意識が強い傾向にあるかもしれませんが、中小企業ではまだ何から手を付けていいのか分からないというところも多いですよね。
カーボンニュートラルには2つの視点があると思うんです。1つは(気候変動の)緩和策と適応による気候変動のリスクマネジメントです。緩和策でなるべく気候変動を抑えながら、それでも進行する部分には適応策で対応していく。
もう1つは、気候変動への対策だけではなく、移行リスクにどう向き合うかです。もともと18世紀に本格的な蒸気機関が発明されて、自動車や飛行機など化石燃料をベースにした高度な文明を発達させてきたのが人間社会なわけです。それをやめて自然エネルギーにしようというわけだから、別の文明に移っていくプロセスを20年、30年という短い期間でやろうということですよね。
だからカーボンニュートラルというのは気候変動のリスクマネジメントを超えた社会変革のドライバーになっている。でも大きな方向性や志は良くても、今まで化石燃料を使って仕事・生活していた人たちがそれを使えなくなり、現に混乱が生じつつあります。
原油価格の上昇もそうです。フランスの「黄色いベスト運動」はマクロン大統領が化石燃料の使用量を減らすために燃料税を上げようとしたら、運転手らがなぜ我々が一番負担しないといけないのかと反論したわけです。

移行期に生じるそうした負の効果やリスク負担をどう社会全体で負うかという全体図がないと、移行自体がうまくいきません。痛みを一部の人だけに負わせるのではなく、社会全体でうまくマネージして、それをコントロールしながら目的に向かう「トランジションマネジメント」というのが非常に重要で、政府の大きな役割はそこにあると思います。
各地域でもどうやって脱炭素と適応をうまく組み合わせて、より良い生活を保障するかが重要です。政府によるエネルギーシステムの整備など政府の動きを踏まえつつ、自分の地域でも新しい状態に移る絵をどう描くかというのは、地域がやらないといけないこと。こうした文明の転換をどうマネージするかという議論は日本であまり聞かないので、もう少し本腰を入れて考えなければなりません。
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