組織の連携になお課題
そうした中でカーボンニュートラル(炭素中立)が打ち出されました。
三村氏:カーボンニュートラルというのは一種の文明の転換だと思っています。社会の根幹をなすようなエネルギー供給とか交通体系、生産システムといったものを変える部分と、個々の企業や人の生活といった要素を見直していく部分との、両方が必要です。前者の電源のグリーン化とかは国の役割ですが、後者については地域の中で役割分担を話し合い、責任を明確にすべきだと思います。
その点において自治体が果たすべき役割は大きいように思います。国内の自治体の意識や対策も変わってきたのでしょうか。
三村氏:両面あります。私も議論に参加した18年施行の気候変動適応法(適応法)では、政府は地方自治体に科学的な情報や資金援助などで包括的な支援をして、自治体は「地域気候変動適応センター」を作り、情報や技術を集約して住民に伝えるという合理的な仕組みになっています。
気候変動の影響は地域ごとに異なる現れ方をするので、日本全体にバサッと網をかけるのではなく、地域ごとに必要な対策をできるようにしないといけない。それを可能にする仕組みになったのは大きな進歩です。適応法制定前は自治体に働きかけても「法律にも条令にもないことをどうして私たちができるんですか」と言われてきましたから。
その一方で、分野間の壁を取り払うという課題がなお残っています。気候変動への適応では、洪水に伴う避難・救助、農業被害、健康被害など影響ごとに様々です。分野ごとに施策があるものの、所管する組織間で情報交換や連携がうまくいっていない。こうした水平統合を進められるかどうかは、世界共通の課題でもあります。
その障壁を取り払うにはどうすればいいのでしょうか。
三村氏:いくつか方法はありますが、1つは地域気候変動適応センターなどが横断的に相談に乗る仕組みをうまく回すことです。ある部局がある部局に働きかけるというのではなく、住民や学識者、専門の業者などが集まり、住民協議会のような形で話し合うのも手でしょう。欧米でも日本でも一番カギになるのは、知事や市町村長など行政のトップが「これは重要だからやる」とトップダウンで進めていくことだといわれています。
温暖化対策を巡っても同様の課題があります。日本の「グリーン成長戦略」って結局は14の産業ごとの政策になっているわけです。でも本当にカーボンニュートラルにしようと思ったら、街で走る車はCO2を出したらいけないし、モノを輸送するときも製造するときもそう。いわば「ネットゼロ地域」を実現しないといけないわけで、横のつながりが必要です。
今は日本全体のエネルギーシステムやモノづくり、交通の体系といった骨格の部分の変革に注力しているということかもしれませんが、最終的には政府がそれらを全て実際の生産や生活の場に反映し、地域全体が変わらないといけない。そのために1つ1つの取り組みをどう組み合わせるか。中小企業はこういう役割を担い、住民は生活の中でこう行動する、といった議論が必要だと思います。
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