予想が次々と現実に

想定していなかったことが起きているのですか。

三村氏:いや、そういうことが起こるだろう、それに応じて世界で何億人に影響が及ぶだろうということは、これまでもずっと指摘していたんですよ。

 最初はノーベル物理学賞を取られた真鍋(淑郎・米プリンストン大上席研究員)先生の気候モデルで、今から先、何年後にはこれくらい気温が上昇しそうですと。そのモデルがどんどん発達してきて、台風の強度がどうなるかというところまで少し再現できるような段階まで来ています。

 それは確率的なものなので、1つのモデルで特定の将来を「必ずこれが起こる」という形で再現するのではありません。統計的な解析の結果、大きな変化の傾向はこうなる。例えば、台風でいうと日本近海では発生数自体は減るかもしれないけど、強度の強いものが増えるんじゃないか、といった大まかな傾向が予測されています。

実際にそれに合ったことが起きつつあるというわけですね。

三村氏:そうです。その次にそれぞれの影響評価モデルというものがあります。洪水モデルならば雨の降り方はどう変わり、川の流量はどう変わるか。堤防の高さが今これくらいだから、水があふれる確率はどれくらいかといったことを予測するものです。

 国土交通省の想定によると、2℃上昇の世界では日本全体の雨の強度が平均的には1.1倍になる。そうすると雨が川に集中する度合いが大きくなって川の流量は1.3倍くらいになります。今堤防がギリギリで持っているところがあるので、洪水が起こる確率は2倍くらいに高まるといったように予測されています。

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 大きな傾向としては昔からも同じようなことを言ってきました。IPCCは毎回、人間の生活や農業、健康にはどういった影響が出るか警鐘を鳴らしてきたのですが、将来のことだから不確実性があるという留保条件付きだったわけです。そう聞くと「まだ確かじゃないのでは」「そうした条件下では将来の計画は立てられない」という人もいて、十分に大きな認識にならなかったということでしょう。

それが、10年前後以降は国内外で起きている現象を目の当たりにして、人々の認識が変わってきたと。

三村氏:そういうことです。世界、政治のリーダーの認識がすごく変わってきていて、特に印象的だったのは07年のハイリゲンダムサミット。ドイツのメルケル首相(当時)が「50年までに温暖化ガスの排出を少なくとも半減することを真剣に検討する」と提案し、G8のトップリーダーの間で初めて合意された。そこが気候変動への認識の転換点になったと思います。

 その後、15年のパリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」といった目標が結ばれ、世界の流れが大きく変わりました。パリ協定の前にノルウェーの年金財団が石炭産業にはもう投資しないと決め、欧米や日本の銀行や商社なども化石燃料に関わる投資から手を引くようになってきたことも大きな動きといえるでしょう。

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