国内やアジア、中東各国の政府機関に対して研究開発、商品開発戦略などのコンサルティングを手掛ける川口盛之助氏。著書に『メガトレンド』シリーズがあり、未来予測の専門家として知られる。日本でもベンチャーキャピタル(VC)が機能し始めており、知の蓄積を生かせる「ディープテック(先端技術)」への投資が進めば、日本の産業に明るい展望が開けると語る。

日本はこの30年、ほとんど成長していません。世界トップだった半導体や液晶ディスプレー、リチウムイオン電池、太陽電池などの分野で、韓国や台湾、そして中国などにシェアを奪われました。未来予測の専門家として、これからの日本をどう見ていますか。
川口盛之助・盛之助社長(以下、川口氏):短期的視点では悲観的にならざるを得ません。まず、労働力不足が深刻です。特にブルーカラーの分野は大変になります。運転手が足りませんし、工事現場も、引っ越し現場も、介護も小売りもサービス産業の現場はみな人手不足です。ロボットの性能向上による省人化が間に合わないのです。
ホワイトカラーについては、量より質の不足が大きな課題です。大学や大学院の質が落ちていて、例えば影響力のある論文の件数は急激に減りつつあります。修士や博士の数も増えない。世界のアカデミーにおける存在感がものすごく低下しています。つまり、ヒト・モノ・カネの中で一番大事なヒトが質・量ともにショートするという意味で、日本の短期的な未来は苦しいですね。国民全体が本格的に移民を受け入れる覚悟を決めなくてはならなくなるでしょう。
強力なベンチャー誕生の素地ができつつある
良い兆候も見えてきています。本当に機能するVCが軌道に乗り始めていて、世界的に強力なベンチャーが誕生する素地ができつつあるので、中長期的には明るいと思います。こうしたVCをマネージするトップ層に40代半ばの世代が育ってきているのです。
その中核をなすのがちょうど2000年ごろの就職氷河期に大学を卒業した超優秀で野心のある人たちです。彼らは、明治時代から先人たちが営々と築き上げてきた日本の「知の蓄積」を生かしたベンチャーに、まとまった投資を行うことができるこれまでにない人材です。
00年ごろとは、超優秀な一部の学生が新卒でいきなり外資系コンサルティング会社に入社するようになり始めた時期です。コンサル業界におけるそれまでのキャリアパスとは、私のように大企業に就職して職務経験を積み、社費留学でMBA(経営学修士)などを取ってから転職してくるというのが常道でした。
ただ、就職氷河期に社会に参画した当時の学生は、寄らば大樹というのは虚構であるという原体験からキャリアが始まっています。一番頭がいいトップガンの連中は早くからそこに気づいていて、もう最初からリスクを取るしかないということで、官公庁や大企業のエリートコースではなくて新卒でいきなり外資系のコンサルや投資銀行などに入社するようになったのです。そして、いきなり外資系コンサルティング会社に入ってもビジネスの第一線で十分に通用することが分かってしまったのです。
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