バブル崩壊後の日本を食い物にする「ハゲタカファンド」を扱った経済小説『ハゲタカ』シリーズなどで知られる作家の真山仁氏。経済や社会の問題を鋭くえぐる作風で知られている。そんな真山氏が2021年5月に『プリンス』を出版した。軍事政権下の東南アジアの架空の国を舞台にした国際サスペンスのテーマは“民主主義は人を幸せにするか”。課題が多い日本の民主主義について、真山氏の考えを聞いた。

今年5月に出版された『プリンス』は東南アジアの架空の国メコンを舞台にした小説です。メコンの軍事政権に対抗してきた民主派大物議員の息子と日本の大学生がさまざまな陰謀に巻き込まれていく話ですが、どうしてこの小説を書こうと思ったのでしょうか。

真山仁氏(以下、真山氏):この小説をちょうど書き始めた2015年ごろには「自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)」の活動が活発でした。若者の政治団体が国会の周りで多くのデモをして注目を浴びましたが、学生にとって身近ではない安全保障法制反対を掲げていたので、デモをすること自体が目的になっているようにも見えました。

<span class="fontBold">真山 仁 (まやま・じん)氏</span><br />1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業後、中部読売新聞(現読売新聞中部支社)で新聞記者になり、その後フリーライターに。2004年に投資ファンドをめぐる人々や企業のドラマを描いた『ハゲタカ』(講談社)で小説家としてデビュー。NHKでドラマ化され大きな反響を呼んだ。その後も社会問題に切り込みリアリティーを追求した小説を次々と発表。21年5月には東南アジアの架空国の民主化に翻弄される人々を描いた小説『プリンス』(PHP研究所)を出版した。(写真:ホンゴユウジ)
真山 仁 (まやま・じん)氏
1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業後、中部読売新聞(現読売新聞中部支社)で新聞記者になり、その後フリーライターに。2004年に投資ファンドをめぐる人々や企業のドラマを描いた『ハゲタカ』(講談社)で小説家としてデビュー。NHKでドラマ化され大きな反響を呼んだ。その後も社会問題に切り込みリアリティーを追求した小説を次々と発表。21年5月には東南アジアの架空国の民主化に翻弄される人々を描いた小説『プリンス』(PHP研究所)を出版した。(写真:ホンゴユウジ)

 これは日本の若者には命懸けで手に入れたいものがないからです。軍事政権が統治している新興国であれば、例えば今ここで大統領を批判する発言をした瞬間、いきなり秘密警察が踏み込んできてもおかしくないような場合もあります。現実にはアフリカの国に多いですが、東南アジアを舞台にした小説を書いたことがなかったので、今回は東南アジアを選びました。

 東南アジアで軍事政権が統治する架空の国メコンを舞台に、SEALDsなどに対して私が感じた空虚感や「若者が本当に訴えるべきことは何か」を伝え、読者に考えてもらいたくて、若者たちが命懸けの選挙をやる設定にしたわけです。

次ページ 民主主義は命懸け