DNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative)は、スイスのジュネーブに本部を置く非営利のグローバルヘルス(国際保健)組織だ。2003年に国境なき医師団と世界保健機関(WHO)などによって設立され、顧みられない熱帯病(NTDs)と呼ばれる疾患グループに主に焦点を当て研究開発を行っている。

 NTDsはWHOが定めた主に熱帯地域でまん延している20の疾患グループのこと。デング熱やシャーガス病、リーシュマニア症などが含まれる。多くは、蚊やハエ、動物によって媒介される、細菌やウイルス、真菌、寄生虫などによる感染症だ。NTDsは弱い立場にある人々の健康と生活を脅かし、貧困の悪循環を生み出すことから、グローバルヘルスにおける大きな課題だ。NTDsの罹患(りかん)により、重度の障害が残ったり、死に至ったりするケースも多い。低中所得国では「経済成長の妨げになっている」とも指摘される。

 DNDiは世界中の様々なグローバルヘルス組織との国際的なネットワークを生かし、顧みられない病気で苦しむ患者が必要とする治療薬・治療法を開発し、患者に確実に届くように取り組んできた。これまでに6つの致命的な疾患に対する12種類の治療薬・治療法を開発。アフリカ睡眠病に対する初めての経口薬であるフェキシニダゾールもその中に含まれている。

 DNDiは日本政府に対して、このほど3つの要望を表明した。来日したDNDiのジョエル・タンギ渉外部門長に要望の狙いなどを聞いた。

2019年にDNDiが開催したシンポジウムでモデレーターを務めたジョエル・タンギ氏(写真:Lukas Schramm-DNDi, 2019)
2019年にDNDiが開催したシンポジウムでモデレーターを務めたジョエル・タンギ氏(写真:Lukas Schramm-DNDi, 2019)

DNDiは日本政府に対して、「グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)に対する日本政府からの出資拡大」「NTDsなど創薬イノベーションに対する日本政府の強い支援を、主要7カ国(G7)広島サミットの宣言文で表明すること」「パンデミックに備えるために途上国の医薬品開発の能力強化とアクセスに対する政府開発援助(ODA)による支援の拡充」を要望したと聞きます。グローバルヘルスに関する資金の拠出を日本政府に求めるのはどうしてでしょうか。

(編集部注)GHIT Fundは12年11月に日本で設立されたグローバルヘルス技術振興基金のこと。厚生労働省、外務省、米ビル&メリンダ・ゲイツ財団、英慈善団体ウエルカム財団、アステラス製薬、エーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬のメンバーが評議委員を務める官民パートナーシップで、13年度以降、マラリア、結核、NTDsに対する医薬品やワクチン、診断法の研究開発を資金面で支援してきた。累計の投資額は22年11月時点で114件284億円に及ぶ。DNDiにとってGHITは有力な資金調達先で、21年にDNDiがドナー(資金提供者)から調達した5250万ユーロ(1ユーロ = 135円で換算すると約70億円)のうち、11%はGHITからだった。

ジョエル・タンギ氏(以下、タンギ氏):私が初めて日本を訪れたのは20年前、グローバルヘルスについて議論するためです。以来、政府機関や政治家、様々な人たちと議論を重ねてきました。グローバルヘルスの分野において、日本は非常に重要な立場にあると思います。

 「全ての人が必要なときに必要な医療にアクセスできる状態」をユニバーサルヘルスカバレッジと言いますが、日本は国民皆保険によって既に実現しています。そして、過去10年以上にわたって日本政府はこの分野で世界のトップリーダーであり続けています。

 もちろん、全世界でユニバーサルヘルスカバレッジを達成するための資金を、日本政府が負担すべきだとは言いません。ただ、先進国による最新技術の独占によって低中所得国が技術にアクセスすることが難しくなり、様々なヘルスケアの問題に直面してきた歴史があります。次のパンデミック(感染症の世界的大流行)の発生を視野に入れると、低中所得国を含む各国のヘルスケアシステムを強化しておかなければ、エボラ出血熱のような感染症のアウトブレーク(感染拡大)が起こりかねません。

 00年のロシアも含む主要8カ国(G8)九州・沖縄サミットで、日本政府は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の設立を提言し、そのリーダーシップと各国の協力により実現しました。GHITに対する日本政府の出資拡大が実現すれば、不平等を解消するための我々の取り組みがより広がるものと期待しています。

 我々が表明した3つの要望を、日本政府がどのように扱うかはまだ分かりません。今後、23年5月に予定されているG7保健相会合(長崎市)や広島サミットに向けて、政府機関や関係者と協議を続けていきたいと考えています。

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