株式会社刀の代表取締役CEO(最高経営責任者)、森岡毅氏はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再生させた敏腕マーケターとして知られている。高度成長期の財産で生き残っている日本企業に挑戦せよと説き、経営戦略としてのマーケティングの必要性を訴える。

<span class="fontBold">森岡 毅[もりおか・つよし]氏</span><br>1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、96年P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、2004年P&G世界本社(米シンシナティ)へ転籍。ウエラジャパン副代表などを経て10年USJ入社。12年、同社CMO(最高マーケティング責任者)。経営危機にあったUSJに導入し、数年で再建した。17年、マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的アイデアを生み出すノウハウなど、暗黙知のマーケティングノウハウを形式知化した「森岡メソッド」を開発。(写真:北山宏一)
森岡 毅[もりおか・つよし]氏
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、96年P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、2004年P&G世界本社(米シンシナティ)へ転籍。ウエラジャパン副代表などを経て10年USJ入社。12年、同社CMO(最高マーケティング責任者)。経営危機にあったUSJに導入し、数年で再建した。17年、マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的アイデアを生み出すノウハウなど、暗黙知のマーケティングノウハウを形式知化した「森岡メソッド」を開発。(写真:北山宏一)

2年前にお会いしたときは「さっき、警察から狩猟免許の合格の連絡が来たんです」と話していましたね。

森岡毅氏(以下、森岡氏):今シーズンだけで、十数頭のエゾシカを仕留めました。この週末は北海道の道東に行ってきて、いろんなシカを捕りました。私はまだ見習いのようなものですが、捕るときは必死です。

 銃の引き金を引くのか引かないのか、さあどうする、という瞬間に頭が研ぎ澄まされ、自分の原始的な脳の何かのスイッチがパチンと入る。そのときに、妙に腹が据わって冷静になれる。「今ここぞ」と、この人さし指の先に人生のすべてがかかっていると思うと、すごい集中力で引き金が引けるんです。このとき、私の脳が「動物」に切り替わっている瞬間だと思います。

狩猟は仕事に何か関係しているのでしょうか。

殺意を持つ野生動物と向き合う

森岡氏:(自身が代表を務める)刀の顧客企業には、エンターテインメント事業を手掛ける企業が複数あります。便利な社会になったゆえに現代人が忘れてしまった興奮や喜びを、狩猟では感じることができる。人はどんなときに興奮するのか、新たなエンタメの可能性を探るうえでヒントになります。

 ビジネス全体にも通じるところがある。社員とその家族、取引先の企業の従業員の生活がかかっていると考えると、大決断をする瞬間というのは重く、引き金を引く感覚に近い。野生動物が追い詰められたときの、こちらに向けるまなざしには揺るぎのない殺意を感じる。あの目と向き合うときの私の覚悟は、ビジネスで大きな決断をするときのプレッシャーに似ています。

狩猟で捕った獲物はジャーキーなどにして食べるという(写真:北山宏一)
狩猟で捕った獲物はジャーキーなどにして食べるという(写真:北山宏一)

 私はまだクマ撃ちの専門ではないけれど、シカよりクマのほうが怖い。一度、クマが走っているのを見たことがありますが、めちゃくちゃ速いですよ。時速50キロですから。あまり深みにはまってけがをしてはいけませんが、自分の命が危険にさらされるほど、何かもっと人間の本質的なことが分かるような気がします。

森岡さんは、2017年にマーケティングで企業支援をする会社「刀」を設立し、日本企業の業績回復などに貢献されています。日本経済を見渡すと、この30年、低迷が続いています。この問題の所在についてどう思われますか。

森岡氏:変化することや失敗することをすごく怖がっている。

 (高度成長期に築いた)「親」が築き上げた財産が大きかったから、変化せずとも食べていける。おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんといった、1つ2つ上の世代が豊かな日本をつくってくれた。そこで築かれた構造や資産を受け継いで、まだまだ食べていける企業が多いんです。

 金融業界、不動産業界もメディア業界も多くがそうなっている。新しい事業を生み出すより、既得権の中で稼いだほうがいいという考えがあります。

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