「コロナ禍は大きなチャンス」

そう考えると、コロナ禍は多くの企業にとって、むしろビジネスチャンスでもある。

高岡氏:そう、そうなんですよ。このコロナ禍を機に、日本は「失われた30年」を巻き返し、世界の変化に追いつかなければいけない。そのためには、やっぱり一人ひとりが考えて行動するのが大事。年を取った人間は、それを邪魔しない。それだけの話だと思います。

 新しい現実を捉えることは、それほど難しい話ではありません。しかし、そこからどんな新しい問題が起こるかまでは、意外とみんな考えていない。

 例えば今、世界中で毎年100万人以上の人が交通事故で亡くなっています。加害者と家族、それから被害者と家族。いったい毎年どれだけたくさんの人が不幸になっているのか。これは車というイノベーションができた結果、生まれた新しい問題です。

 そう考えると、その先にある問題解決は、自動運転によって運転しなくてもいい未来ではなく、交通事故をゼロに近くすることではないでしょうか。そもそも運転したいという人もいるのに、何のために自動運転にするのかという話です。グーグルはそこまで考えていますよ。

その先を見ていると。

高岡氏:そうです。AIを使って、100%事故が起こらないような車をどうつくるのかというのが、彼らのイノベーションのアプローチです。

結局、そういう考え方をしないと、イノベーションは生まれないんですね。

高岡氏:消費者調査で出てくるようなデータは、他社も把握しているんですよ。自分の頭を使って、新しい現実を常に考えていると、ああ、こんな問題が実は出てきているんだな、と気づく。それを見つけることによって、他社に先んじて新しいサービスや商品、イノベーションを生み出し、圧倒的な売り上げと利益を稼いでいける。

世の中のすべての現実は深くたどれば、理由があるということですね。

高岡氏:そうなんです。考えていると楽しいですよ。ああ、こういうことだったのかと分かった瞬間は特に。考えることが楽しくなれば、本当に日々の仕事にポンポン生かせるようになります。僕もスイスのネスレ本社で、日本のことを全く分からない経営陣から、いろんな質問を浴びせられ、その都度考えてきたことで、やっとそういう癖がついたというのが正直なところです。僕も最初から実践できていたわけじゃないんです。

経済3団体へ「提言するなら実行せよ」

これからの日本の進むべき道は。

高岡氏:誰かが変革してくれると期待するのではなく、国民一人ひとりがみんなで変革していこうという機運がこのコロナ禍を機に高まらない限り、もう日本は変われないと思います。この先10年も、失われた時代が続いたとしても不思議ではない。

 産業革命によってイノベーションが起こるということは、1つの会社どころか、1つの産業がなくなるかもしれない出来事です。リノベーションだったらそこまでいかないけど、イノベーションって、そういうものですよね。今の日本のシステムだと、既存の産業の人たちは変化を恐れて、政治家に陳情に行くわけですよ。

 そもそも、政治家にすべてを期待するのは難しい。正直、政治家1人のリーダーシップで社会は変わりません。現在の法制度でも、やれることはあるんじゃないかというのが僕の考えです。現に、労働法制が変わらない中でも、ネスレ日本はホワイトカラー・エグゼンプション(脱時間給制度)を導入できたわけですから(関連記事「ホワイトカラーが時間給なんて日本だけ 元ネスレ高岡浩三の直言」)。

 たくさんの人が動いたら、法律だって変わりますよ。今、特に問題になってるのは、やっぱり経済の復興だと思います。日本全体で社員の給料が長らく上がってないという現状を見れば、まずはそこから手をつけなきゃいけない。そのためにはやっぱり、経済界一人ひとりが、社会のルールを変えていくことにまい進しないといけない。

 経済3団体(日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所)もいろいろと提言するのは構わないけれど、提言したら自分の企業でやれよと思うわけです。これは、書いてもらっていいですよ、本当に。でないと、全く意味がないと思う。昭和の高度経済成長期とは違うんだから。

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