考えて実験するのが仕事である

実際に続けていくうちに、実になるアイデアが生まれていった。

高岡氏:グランプリに選ばれたアイデアが、翌年の会社の戦略になり、考えた本人が僕の直轄するプロジェクトリーダーになる。そうすることでモチベーションが高まるんですよ。どんなポストにいても、会社を動かせるということですから。それはある意味、若い人にものすごくチャンスを与えることにもなる。こうした仕組みがあったからこそ、10年目には2500人ほどの社員から、年間5000件を超えるアイデアが届くようになりました。

 もちろんその中で、本当にイノベーションに値するのは、数えるほどしかない。それでもこれだけのアイデアが集まったということは、それだけ考えてくれたということ。考えて実験する。それこそが仕事です。その結果、成功に至らなくても、全く無駄ではない。それよりも、考えずして、ただ作業しているほうが、僕の中ではよっぽど無駄です。

新しい現実、新しい問題を考えなさいと社員に求めたのは、そうしないと生き残れない時代に突入したと思ったからですか。

高岡氏:そうなんです。20世紀は特定の産業の中で、同業他社と競争していればよかった。デジタルの時代は、自社の商品、サービスが、顧客のどんな問題を解決して対価をもらっているのかということを考えないと、思わぬところから客を奪われる可能性があります。

 コーヒーもそうでした。朝食にパンを食べながら、コーヒーを飲む風景をつくったのがネスカフェですよね。ところが、核家族で共働きの時代になり、家族ばらばらに家を出て、朝食も個々に取るようになった。

 「1人1杯ずつコーヒーのお湯を沸かすぐらいなら、冷蔵庫の中にあるトマトジュースでいいんじゃない? 栄養もあるし。ヨーグルトドリンクでいいんじゃない?」と、こんなふうに、全く違うカテゴリーの商品と競争しなくてはならないことに、我々は気づいたんです。

 そこで、ネスレはカプセルを入れてボタンを押すだけで、おいしいコーヒーが出てくるバリスタを考案した。まさに世の中の新しい現実を捉え、そこから生まれた新しい問題をどう解決するかという中で生まれた一手です。

 実際、スーパーでドリップコーヒーを1杯10円、20円で安売りしていても、60円、80円するネスレのカプセルのほうが売れるわけですよ。これだけデフレでもですよ。ネスレのように新しい顧客の問題を見つけられれば、コーヒーマシンを買ってまで、1杯当たり5倍もする価格のコーヒーを喜んで飲んでくれる。結果で見ると、恐ろしい差が生まれるわけです。

高岡さんは「ネスカフェ アンバサダー」というビジネスモデルを立ち上げ、ネスカフェのコーヒーマシンをオフィスに持ち込みましたね。これも、新しい問題解決から生まれたアイデアですか。

高岡氏:一緒ですよ。共働きが広がり、家庭内のコーヒー消費が減っていました。これからはコーヒーも外で飲む時代。でも、外で飲むといっても、道端で歩きながら飲むのかという話です。やっぱり部屋の中で飲みたい。自宅以外の部屋の中といったら、もう働く場所しかない。それで「ネスカフェ アンバサダー」をつくったんです。

 近くにコンビニがあるとしても、わざわざ会社の外へ出てコーヒーを買いに行きますか。自分のデスクから数歩先のところに、ネスカフェのマシンが置いてあって、1杯20円程度から飲めたら、絶対にいいはずだと。

今は「ビジネスプロデューサー」として、様々な企業に助言する立場になりました。

高岡氏:自分が社長ではないので、しんどさはあります。クライアント企業の社長と何度も対話し、相手の考え方を尊重しながら、新しいビジネスを生み出すお手伝いをすることに徹しています。

 例えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉があります。僕はこのDXを、デジタルやAIを使って、稼ぎ方を変えることだと定義しています。それが結果的にイノベーションにつながる。そういう定義をつくることによって、単なるデジタル化と分けて考えているのです。

 外食産業はコロナ禍で来店客が減り、テークアウトに力を入れ始めましたよね。でも、お客さんに取りに来てもらうのでは、店で稼ぐことに変わりはないわけです。僕が今、お手伝いしているスシローで目指しているのは、デリバリー網を拡大して、スシローのすしを家で、スマホで、簡単にオーダーして食べてもらえるようにすること。ここまでやってこそDXだというのが、僕の考えです。

 配達のコストがかかるとか、そのコスト上昇分をお客さんが払ってくれるのかって、なんだかんだ言われるんだけど、じゃあ、マクドナルドを見てみなさいと。「デリ得セット」というデリバリー専用メニューを用意して結局、客単価を上げることに成功しているんです。だってそうでしょ。決まった時間に配達してくれるんですから、料金を上乗せしても頼みますよ。すしは冷めないので出前との親和性が高い。デリバリーを通して、単なるデジタル化ではなく、稼ぎ方を変えることを今、やっているわけです。

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