今、新卒で採用している技術者の半分以上はAI関連です。学生にはそういうことがやれる人がいるわけです。21年の新卒から極端に増えたのですが、東京大学でAIをやっていた人たちがたくさん入社してくれました。かつてのソフトバンクでは、東大生を採用することすら不可能でした。

 19年に東大と一緒に「Beyond AI 研究推進機構」を立ち上げて2年になります。そこで東大の学生たちに宿題を出して、AIのプログラムを書かせて、新しい産業づくりをやっています。その人たちが、就職するならソフトバンクだと決めてくれた。以前なら、ソフトバンクは通信会社のイメージが強く、彼らがどう活躍するのか想像できなかったと言うんです。でも、我々はAIを得意とする人材が欲しかったわけです。

AI人材を青田買いして活躍の場与える

 よく「デジタル人材の平等な分配を」とかいう経営者たちがいっぱいいるけれど、そんな泣き言を言っていてもどうしようもない。学生の青田買いを進めるしかないんです。しかも、我々がどういう人が欲しいのかという意識を学生に植え付けなくちゃいけない。

 寄付講座を作るくらいなら皆さんやっていますけれど、それだけでは学生は来てくれません。もっと身近に学生と触れ合わないとね。24年から愛知県のスタートアップ支援拠点「ステーションAi」を運営しますが、これも後ろ側に名古屋大学と名古屋工業大学があるからやるわけですよ。

 就職活動の解禁日に、我々は学生向けのウェブセミナーをやるんです。孫(正義ソフトバンクグループ会長兼社長)の名前を掲げて人を集めて、実際には僕がしゃべる(笑)。それを視聴した学生の約4割が選考に進んでくれました。

 それだけ多くの学生がエントリーしてくれるので、新入社員の質が非常に上がりました。大学もAIのプログラムを書くような授業を増やしてくれているので、さらに学生の質が上がるはずです。これを10年続けると、会社の構造はこれまでと全く違うものになると僕は信じています。相当面白い会社になりますよ。

ただ、AI人材は引く手あまたですよね。彼らをつなぎ留めるためには、活躍の場が必要になりますよね。

宮川氏:AIの人材を採り始めたのは2年前ですが、正直言って最初の1年は、辞めてしまった人が結構出たんですよ。米国から高額の報酬でスペシャリストを採用したのですが「ソフトバンクにいても成長できない」と言われてね。

 分析してみると、結局、上の人間が使いこなせていなかった。「きちんと仕事は与えています」と言うのですが、AIのスペシャリストからすれば、1日でできてしまうような内容だったりしたんです。そこで方針を大きく変えました。子会社化したヤフーや、最近ではLINEとの交流を進め、ありとあらゆる仕事をしてもらうようにしたんですね。ヤフーやLINEには高レベルのAI人材がいっぱいいるので、仕事のキャッチボールもうまくいくし、企業をまたいだ新しいビジネスモデルをつくるという喜びもある。

 すると新規事業が相次ぎ生まれ、子会社もたくさん作れるようになった。そういう舞台で、若手にCTO(最高技術責任者)などを任せています。だからでしょうね。最近は離職が減りました。

ソフトバンクは20年秋、東京の竹芝に本社を移転しました。AIをフル活用していると聞いています。

宮川氏:移転時は副社長兼CTOだったので、僕が考えられるテクノロジーを全部埋め込もうと考えました。やりたいことをやったつもりではいるのですが、未完成ですね。

 入り口で顔認証するとエレベーターが自動的に自分の執務フロアまで連れていってくれるという技術は、エレベーターと顔認証の技術を最適化しただけ。照明や空調のAI制御も始めていますが、それぞれを最適化しただけです。それでは全然足りません。AIが個別に最適化した複数のプログラムを、ビル全体で最適化する「マザーAI」をつくらなければならない。

 「オートノマスビルディング」と呼んでいるのですが、例えばビルが汚れていると判断したら、自ら清掃ロボットを動かしてきれいにする。そして、ビルの寿命を延ばすために、メンテナンス情報をビル自らが管理する。そして、オフィスワーカーたちが一番快適に過ごせる環境をビル自らが判断してつくっていく。次のビルでは、そんなAIにチャレンジしようと考えています。

竹芝の新オフィスでは人流データなどを収集し、テナントに情報を送っている
竹芝の新オフィスでは人流データなどを収集し、テナントに情報を送っている

最終的には、あらゆるデータを収集してスマートシティーを動かす「都市OS(基本ソフト)」を目指すということですか。

宮川氏:もちろんです。竹芝のビルと、近隣のJR東日本のビル(ウォーターズ竹芝)とでデータ連係を始めました。近い将来に最寄りの浜松町駅ともやろうと思っています。だんだん点がつながっていって線になり、そのうち面になっていく。そして面と面がまた線でつながっていく。こうして日本全体をデジタル化するのが、僕のやりたいことなんです。

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