AI(人工知能)配車サービスなどを開発する子会社のモネ・テクノロジーズ(東京・千代田)が、福岡県嘉麻市でオンデマンド配車の実証実験をしたときのことです。アプリで呼べばすぐ来る仕組みですが、高齢者向けに電話予約の仕組みをつくったところ、9割以上の利用が電話予約でした。デジタルを使った仕組みをいくら提案しても、その恩恵を受けてもらえることができなかったわけで、これは僕の大きな反省材料になりました。その後、モネとソフトバンクが連携して、高齢者用のスマホ教室もセットにして実証実験するようにしています。

 高齢者がデジタルのインターフェースを持ってなければ、どれだけ努力しても日本のデジタル化は進みません。政府だけでなく国民全体の意識を変えない限り、日本はこれ以上のデジタル化は進みません。

高齢者でも使いやすいデジタルのインターフェースはないのでしょうか。LINEのチャットのような対話型サービスなら、高齢者が気軽に使えると聞きます。

宮川氏:LINEは武器になると思います。そうでなければ、あんな高いお金(株式の取得総額は約1860億円)を出して買収しないですよ。

 僕も最近、宅配便の再配達はLINEで申し込んでいます。(LINEのチャットで)伝票番号を打てば、(チャットボットが)一生懸命考えて答えてくれる。そういうやりとりはAIの力で十分できます。意識せずともデジタルを使えるようになるのが完成形だと思いますね。

AIプログラマーは社内では育成できない

デジタルでは後進国といえる日本が活路を開くには、どの分野に力を入れるべきでしょうか。

宮川氏:AIとスマートロボットしか僕はないと思っています。日本は超高齢化社会になってきて、労働生産人口が減っていく。その中でGDPを保たなくちゃいけない、成長させなくちゃいけない、高齢者を支える原資を労働生産人口だけでつくらなくちゃいけない。日本経済をこのまま維持するだけでも、生産効率を高めていかなければ絶対に無理だと思うんです。働く人たちの効率を向上させるためには、デジタル化をして、ロボット化をしていくというところが1つの鍵になります。

海外企業を買収しても日本の復活にはつながらないと話す(写真:的野弘路)
海外企業を買収しても日本の復活にはつながらないと話す(写真:的野弘路)

 海外と比べて競争力のあるものを作るなら、「超賢い」ロボットにしなければなりません。他の国にもあるようなロボットを作るだけでは対抗できない。そのスマートさはすなわちソフトウエアの技術ですから、AIの能力の高いロボットを作るべきです。これが答えですね。

しかし、AIは米国や中国が強い印象があります。日本に勝ち目があるのでしょうか。

宮川氏:やはり教育からでしょう。何があっても教育。短期的な方法はまだいくつかあると思いますが、これからの日本がAIを産業の武器にしたいのなら、子供たちの教育からだと思うんですよ。

 ただし、今から教育を見直しても新しい人材が育つまで10~20年かかります。その間は我々のように経済に携わっている世代が、何とかつなぐことになります。飛び道具で海外のAI企業を買ってくるとか、海外で成功したビジネスモデルを買ってくるだとか、そういうことも可能かもしれない。しかし、国内で新しいことが生まれるようにならないと、本当の意味で日本の復活はありません。買収とかは本当に一時しのぎだと思うんですよね。

ソフトバンクグループはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じて、海外の最先端スタートアップに投資しています。一方で、日本では有力なスタートアップが生まれてこない。なぜでしょうか。

宮川氏:挑戦者にチャンスを与える仕組みが出来上がってないからでしょうね。日本の金融機関は売り上げがない会社に対して投資できないと考えている。でも海外はそうではなかった。日本が指をくわえている間に、そうした企業が「ユニコーン」として成長していったということでしょう。

しかし高度経済成長期は、家電メーカーや自動車メーカーが銀行から長期融資を受けて成長しました。

宮川氏:機械で物を生産するのは分かりやすいですが、AIのようなソフトウエアの良しあしを判断するのは難しい。米国では早い段階から大学でAIを教えてきただけでなく、その教授たちがスピンアウトして、マーケットにどんどん出ていきました。そしてAIの良しあしを判断する側に回ったわけです。それを受けて、学生たちがどんどん出ていった。

 そのサイクルが日本では動いておらず、AIを専門に教えている大学の学科もない。だから早急に教育の在り方を考え直さないといけない。例えば、暗記学習ってもういらないと思うんですよね。スマートフォンで調べれば情報は出てきます。もちろん、調べた事実をどう解釈するかという学問は必要だと思いますが、少なくとも暗記することに価値はない。社会構造が変わる中で、教育自身ももう一歩踏み込んだ進化が必要な時期に入っているのではないでしょうか。

ソフトバンクは「総合デジタルプラットフォーマー」を掲げ、AIを核にしたDXソリューションに力を入れています。人材はどう教育しているのですか。

宮川氏:AIのプログラマーは社内ではつくれない。AIを使ってどういうビジネスをつくるか考えるエンジニアは社内教育で増やしていますが、プログラムを書ける人材は少ない。

つくれないんですか。

宮川氏:これはやっぱり、教えてできるものじゃないですよ。ゲームクリエイターと同じ世界ですから。ただし、若い世代にはちょっととがった人材がいっぱいいるんです。

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