2020年春以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって企業は働き方の見直しを余儀なくされた。リモートワークが広がり、昭和の時代から続くアナログな業務プロセスのデジタル技術への置き換えも進んだが、感染が落ち着くとコロナ前の職場に戻ろうとする回帰圧力も働く。ポストコロナ社会を企業が強く生き抜くために何が必要なのか。コンサルティング会社、ワーク・ライフバランス(東京・港)の小室淑恵社長が説く。

1975年生まれ。日本女子大卒、資生堂入社。2005年に資生堂を退社し、翌年にコンサルティング会社、ワーク・ライフバランスを創業。1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる改革手法に定評がある。残業を削減した企業では業績と出生率がともに向上している。政府の産業競争力会議民間議員なども務める。
リモートワークの普及やペーパーレス化などで日本の働き方は変わりました。この変化をどのように評価していますか。
小室淑恵社長(以下、小室氏):いい変化は、仕事を評価する価値観が大きく変わったことです。今までは出社して、上司の見えるところで仕事し、かつ上司よりも遅くまで会社に残ることが評価されるような風潮がありました。多少熱があっても、体調が悪くても、「会社に来て仕事できるよね?」というスタンスです。
しかし、コロナ禍以降は、「体調が悪いなら、とりあえず在宅か休んでくれ」に変わりました。「上司の目前で仕事をする」「遅くまで会社に残る」ことを重視する価値観を破壊できたのは、コロナの大きな変化だと思います。このことにより、自分の仕事に向き合いやすくなり、仕事の本質や生産性に集中しやすくなりました。
アブセンティズムとプレゼンティズムはご存じでしょうか。アブセンティズムは欠勤・病欠による生産性の低下。プレゼンティズムは、勤怠管理上は出勤扱いですが、健康問題が理由で生産性が下がっている状態です。肩こりや頭痛、憂鬱な気持ちで仕事しているのも含まれます。体調が悪くても出社し、残業を遅くまでする日本は圧倒的に後者で損しています。
人間の脳は朝起きてから13時間しか集中力がもちません。それ以降はお酒を飲んでいる状態と変わらないんですね。つまり、朝起きて13時間以上たって残業しても、仕事の質は下がり、ミスが増えてしまいます。そのミスの修正に翌日の午前中を費やし、後ろ倒しになった仕事のためにまた残業するという悪循環に陥ってしまうのです。
ミスが取引先に影響すれば、火消し作業に上司が動かないといけない場合もあります。さらに企業は低品質な仕事のために給料と残業代を支払うコストもかかりますから、誰も得しません。価値観が変わったことで、この悪循環から抜け出せればいいと思います。
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