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国見昭仁(くにみ・あきひと)
国見昭仁(くにみ・あきひと)
1972年、高知県生まれ。クリエイティブ・ディレクター、経営戦略家。 96年、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行。アサツーディ・ケイ(現・ADKホールディングス)を経て、2004年に電通に入社。10年、社内で経営/事業変革のクリエイティブユニット「未来創造グループ」を立ち上げる。同グループは17年に「電通ビジネスデザインスクエア」に拡張。18年、エグゼクティブ・プロフェッショナル(役員待遇)に就任。20年、電通を退社し、6人の仲間とともに「2100」を創業。主なクライアントにスノーピーク、パナソニックエナジー、ダイセルほか。

国見さんが日ごろのお仕事の中で、日本はここが行き詰まっている、と具体的に思うことは何でしょうか。

国見昭仁氏(以下、国見):僕が気になるのは、仕事をしている人の表情です。ざっくり言ってしまうと、経営の人たちも、現場の人たちも、表情がカチコチ。楽しんでいる人が少ないんです。

 自社が抱える課題をいろいろ分析して、語ることはできても、そこから抜け出して、未来をつくろうとする気持ちが今ひとつ見えてこない。日本にポテンシャルはまだまだあるのに、残念なことです。

 日本は1945年に敗戦国になりましたが、その後の数十年で経済大国に成長しました。日本人が持つ底力をそこに見ますが、その力を発動させる「動力源」を生み出せるか否かが、経営者の手腕だと僕は考えています。

 日本の会社は、燃料はちゃんとあるのに、火花を飛ばしていないから、ただの液体のまま、という状態になっている感じです。特に大企業を見ていると、多くの場合、経営者が火を付けることを忘れてしまっている。僕らの仕事は意志をつくる仕事でもありますので、まず経営者の意志をつくり、燃料に火を付けてもらう。火を付けた後は、もう引き下がれないから、その先に行っていただく。その意味で、点火装置の創出会社ともいえますね。

点火のテクニックというものはありますか。

北極星はどこにある

国見:初めてお会いするクライアントに、よく聞いている質問があります。「今、会社はどのステージにいますか?」というもので、「創業期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のどこにいるか教えてもらうのです。

 もしかしたら、クライアントは直近の困り事で相談に来られるかもしれませんが、あえて俯瞰(ふかん)した質問をするようにしているのは、直近の困り事を尋ねると、極めて短期的な解決策の話にしかならないからです。俯瞰した質問をすると、課題の根っこにある本質的な問題がだいぶ見えてきます。

 次に、細かい解決策は後にして、まずその会社が目指すべき「北極星」を一緒に決めます。これは、創業期、成長期、成熟期、衰退期すべての局面において大事な設定で、その後の道しるべとなります。

 前編(参照:「『自分の子どもに働いてほしい日本企業』のつくりかた」)でお話したスノーピークの例で言うと、成長期にあった同社も、そのままでいると、キャンプ業界における競争の世界でどんどんまねをされていき、もしかすると独自の存在感が薄れてしまったかもしれない。でも、会社の存在意義を、高品質なキャンプ用品の製造ではなく、「人間性の回復」に定め直したことで、唯一無二の存在として成長の道筋を走り続けることができている、と考えられます。会長の山井太さん(前社長)も、現社長の山井梨沙さんも、そこは絶対にブレない、ブレさせない極めて強い意志を持っています。

 現在、持ち株会社制へ移行するパナソニックで、4月1日に事業会社として法人化される「パナソニックエナジー」の立ち上げにどっぷりと携わっています。