世界でスタートアップの育成競争が激しさを増している。米国と中国の2大国に加え、英国やインド、イスラエル、韓国などがエコシステム形成に注力している。日本でも、経団連が企業価値10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン」を5年後までに100社に増やす意欲的な目標を掲げた。米プライベートエクイティ(PE)ファンド大手のベインキャピタル、西直史マネージングディレクターは、「スタートアップが『いい会社』になるためのお金と時間が非常に重要だ」と話す。

西直史(にし・なおふみ)
西直史(にし・なおふみ)
東京大学教養学部学士、修士(国際関係論専攻)。スタンフォード大学経営学修士。2004年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、製造やハイテク・通信分野の企業向けに、グローバル戦略の立案などを手掛ける。07年、ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLCに入社。

日本の課題として、規模が小さいままスタートアップが早期に上場する「小型上場」があります。ユニコーンが育たない一因とも指摘されています。

ベインキャピタルの西直史マネージングディレクター(以下、西氏):日本は、上場時の企業価値が200億~300億円ほどでも大きいと見られがちです。場合によっては100億円未満もあります。対する米中は、上場時に1000億円を超えてくるケースが多く、日本と1桁も2桁も異なります。会社として成熟しているというと言い過ぎかもしれませんが、ある程度の基盤ができているので、上場後に、がたっと崩れることが少ない。

 日本だと、上場した瞬間は500億~1000億円まで伸びたけど、気付いたら100億円まで縮んでしまった、というケースもある。

かつて、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長が、日経ビジネスの取材に対して「日本の起業家は引退興行」と表現していました。上場直後が企業価値のピークで、その後右肩下がりになってしまう「上場ゴール」の問題に通じるところがあると思います。

(関連記事:柳井正氏の怒り「このままでは日本は滅びる」

西氏:創業者、経営者、起業家も人それぞれなので、十把ひとからげで語るのは失礼かなと思いますが、こうした問題意識を持つ人が増えてきたのは確かだと思います。

 5年ほど前は、起業家と話をしていると「とにかく2年後に上場したい。どうしたらいいんだ」という議論が多かったのですが、今は「本当に今、上場すべきなのか」とか、米ペイパル・ホールディングスに買収された決済ベンチャーのペイディのように「上場よりも事業会社とのパートナーシップの方がいいんじゃないか」といったふうに、会社を成長させるためにはどうしたらいいかという考え方が増えてきています。

こうした課題を解決するため、上場が見えてきた未上場のスタートアップに、さらなる成長資金を投資する「グロースキャピタル」が日本でも注目されるようになりました。

西氏:2021年前半から後半にかけて、日本でも非常に盛り上がってきました。大きく4つのムーブメントがあったと思っています。

 1つ目は、今までの延長線上です。起業したての「アーリーステージ」のスタートアップに投資する日本の大手ベンチャーキャピタル(VC)が、上場を見据えた「レイトステージ」の企業にもお金を出すようになった。「満塁ホームラン」を狙うような投資だけでなく、もう少し確実性が高い投資先に資金を投じるという流れです。確実性が高まる分、1件当たりの投資額が大きくなります。

 2つ目は、レイトステージ企業への出資を専門に狙うファンドの登場です。例えば、元ミクシィ社長の朝倉祐介さんらが創業したシニフィアンや、ミネルバ・グロース・パートナーズなどです。

 3つ目は、機関投資家です。これまではIPO(新規株式公開)のタイミングで出資してきましたが、IPO投資が過熱してきたので、IPO直前に出資しようという手法です。例えば、香港が拠点のタイボーン・キャピタル・マネジメントといったところです。

 4つ目が我々のようなPEファンドです。弊社以外だと、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)やカーライル・グループになります。こうしたプレーヤーが2年ほど前から増え始め、昨年には一気に出てきたという印象です。

出資の手法に違いはあるのでしょうか。

西氏:VCとグロースキャピタルを専門とするファンドの出資規模は大きくても20億~30億円規模にとどまります。機関投資家は、VCよりも大きな額を投資できる一方、「来年、上場を見据えている」といった出資先がメインになるでしょう。成長するまで3~4年かかる案件にお金を出すのは、なかなか難しい。

 PEファンドは、お金が大きな規模で出せる。経営指導や助言が得意な人材が集まっているケースが多い。かつ、投資期間が5年など長くなっても気にしない。他のプレーヤーとは異なる色が出せると思っています。今は、まだ日本のスタートアップが100億~200億円のお金をどかんと必要とするケースがないので、PEファンドの投資も小規模が多いです。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3898文字 / 全文5826文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「ニッポンの活路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。