『ミカドの肖像』や『日本国の研究』といった著作で日本という国の本質に鋭く迫り、首都のトップとしてこの国の課題に向き合った作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏。人口減が進み、コロナ禍に苦しむ現在の日本を猪瀬氏はどう見ているのか。猪瀬氏は気候変動という大きな社会問題を解決するビジネスが成長の鍵を握ると主張する。
(関連記事:インタビュー・上 猪瀬直樹氏「“虫けら”と思われても戦った日本人はどこにいった」)
昨年出版された『カーボンニュートラル革命』(ビジネス社)を読みました。再生エネルギーにより新たな資本主義社会を構築し、環境問題などの社会課題を解決するビジネスが持続的な利益を生み出すと説いています。日本はなぜ電気自動車(EV)や太陽光発電、風力発電、地熱発電などの普及が遅れているのでしょうか。
猪瀬直樹氏(以下、猪瀬氏):日本の消費者がいけないと思います。メーカーもいけませんが、やはり消費者に気候変動に対する問題意識があまりにもないことが問題です。その点欧州などは誰もが気候変動に対して危機感を抱いています。
なぜ日本人は気候変動に対する危機感がないのかというと、地震や火山の噴火、津波などは運命だと思って諦めているからです。欧州などは、自然現象の中には気候変動など制御できるものがあるという考えを持っています。洪水や巨大台風、海面上昇はみんな二酸化炭素(CO2)の出し過ぎによって引き起こされている。CO2を出し過ぎているのであれば、それを変えればいいと考えています。

ところが、日本人の問題意識としては、地震や津波、火山の噴火、気候変動などを分けて考えず、すべてが一緒になってしまっています。地震やそれに伴う津波、火山の噴火などの地殻変動と気候変動は別の話です。地球の自然現象と人為的に引き起こされたものを一緒に考えてはいけません。
米テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は、CO2を排出する化石燃料ではなく自然エネルギーで暮らしていくという発想の中にクルマを位置付けています。ちなみに日本における海外からのエネルギー購入コストは約17兆円に達します。
既得権益が足を引っ張っている
再生エネルギー普及における問題は、やはり既得権益を持つ側が足を引っ張っていることです。日本には電力会社が10社あります。いずれも送電線の地域独占をしている企業です。実は電力会社にとっては発電所より送電線の方が重要です。東京都副知事のときに東京電力の改革を進めたのですが、財務諸表を見ると送電線の資産価値が4兆円、発電所は2兆円なのです。びっくりしました。高速道路に例えると、高速道路が送電線、発電所はサービスエリアという感じでしょうか。
問題は、電力会社が送電線の利用権を囲い込んでいることです。再生エネルギーの発電所を造っても、送電線を利用できないので電力を送れません。東日本大震災以降、稼働している原子力発電所が少ないにもかかわらず「原発用に1車線を取っています」という態度なのです。
送電線は公共のもの、私道ではなく公道です。欧州ではすべて公道扱いです。公道であれば、送電線は巨大なインフラになります。送電線はもともと我々国民が支払っている電気使用料で作ったものです。ところが、地域独占なので東京電力管内とか、中部電力管内とか、関西電力管内といった形になり、それぞれの連携性が悪い。
九州における太陽光発電の発生コストは1キロワットアワー当たり1円と安いのですが、九州電力内で余った電力を本州の電力会社には送りにくいので捨ててしまっています。だから、各電力会社の送電線をうまく連携させて利用率を高めていく必要があるのです。東京電力は分社化したのですが、送電線を完全に開放していません。まだ公道になっていないのです。
完全に「公道化」するためにはどうすればいいでしょうか。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り2611文字 / 全文4208文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「ニッポンの活路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?