『ミカドの肖像』や『日本国の研究』といった著作で日本という国の本質に鋭く迫り、首都のトップとしてこの国の課題に向き合った作家で元東京都知事の猪瀬直樹氏。人口減が進み、コロナ禍に苦しむ現在の日本を猪瀬氏はどう見ているのか。猪瀬氏は「日本は自らの世界観をつくれなくなっている」と、この国の先行きを憂える。
日本はこの30年、国内総生産(GDP)がほとんど伸びていません。少子高齢化が進み、人口も減っていく中で、どうすればよいと考えますか。
猪瀬直樹氏(以下、猪瀬氏):国家が大きな目標や文化・文明を設定しないと、国民は役割が見えてきません。個人としてお金をもうけたいという気持ちは分かります。しかし、「公」のことを考えていません。それではダメだと思います。

米メタ(旧フェイスブック)最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏や米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏などは毎年多額な寄付をしています。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は財団をつくって、アフリカの貧困問題などを解決すべく動いています。それと比べると、日本人は公に対する使命感が消えてしまったと思います。
戦争に負けた後もしばらくはナショナリズムが残っていて、公の時間つまり歴史があったのですが、それが消えてしまった。現在は「私」しかないことが問題なのです。公については、『公(おおやけ)』(NEWS PICKS publishing)に詳しく書いています。
バブルまでは戦っていた日本
日本は戦争に負けましたが、戦後も世界と戦っていました。直木賞作家の深田祐介氏の『新西洋事情』には、日本の商社マンたちが海外で戦っている様子が描かれています。当時の日本は虫けらのように思われていましたが、とにかく海外での販路を開拓していったのです。羽田空港は国際空港ではありましたが、ボロボロで汚く、まさに出征兵士が飛び立つ風景のように見えました。そこには戦争がまだ継続しているようなナショナリズムの残滓(ざんし)があったと思います。
1960年代から70年代にかけて、米国は当時としては非常に厳しい自動車の排ガス規制を設けました。当時は日本のメーカーがようやく進出し始めた時代です。そうした中でホンダはCVCCエンジンを開発して厳しい排ガス規制を見事にクリアし、一気に名を上げました。それから数年後に米ロサンゼルスに行ったのですが、走っているクルマの4台に1台ぐらいがホンダといった印象でした。
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