かねて日本の研究開発におけるコンバージェンスの不足を指摘していますね。

濱口氏:米国にNSF(National Science Foundation、全米科学財団)という、我々とよく似た研究費をマネージしている国の機関があるのですが、そこの先代の長官で、宇宙物理学の研究者でもあるフランス・コルドバさんという女性が最初に「コンバージェンスをやらなきゃいけない」と言い始めました。

 日本にも融合型研究を支援するプログラムがあります。異なる領域を組み合わせて、1つの目標をお互いに議論しながら、融合して新しい研究領域をつくるというものです。例えば私が名古屋大学の総長をやっているときに、化学と植物の分子生物学を一緒にしたケミカルバイオロジーという領域の研究をスタートさせました。10年たつ間に研究領域として確立され、この分野では名古屋大が世界でトップレベルの業績です。

 でも、海外のリーダーたちと議論していると「融合型(フュージョン)ではだめだ。コンバージェンスだ」と言われます。どこが違うのかというと、2つが融合するだけではなく、もっと多くの、例えば社会科学なども入れた形で1つのチームをつくり、そのチームで1つの目標を議論していく。そして、最終的に社会に影響を与えることを目指す。こういった考え方なんです。

最初から社会への影響を目標に掲げて取り組むわけですね。

濱口氏:SDGsはコンバージェンスでなければ実現できません。食料問題を例に取ると、食料を効率的に生産できるような種を開発するというのが農業や植物の生物学の従来のやり方ですよね。だけど今、我々は水や肥料が枯渇することも想定しなければいけない。その問題は種苗の開発だけでは解決できませんよね。

 日本の農業ではおいしいもの、高くて売れるものをつくることを目指してきましたが、世界が直面しているのは何億人という子供の飢餓の問題です。そういう人たちに高栄養なものを効率的に届けるにはどうしたらいいか。水の問題や肥料の問題などを含めて考えなければいけないし、途中で搾取されないようにするには経済水準を高めるための取り組みも必要になるかもしれません。

若い研究者がもっと色々なことをできるように

コンバージェンスを実現するのは簡単ではなさそうです。

濱口氏:JSTが担当する「ムーンショット型研究開発事業」の中で、1年ぐらいかけて新たな課題設定をする「ミレニア・プログラム」をやってみました。

 まず若い人たちにチームを組んでもらい、我々は今、どういう課題を本気で研究しなければいけないかを提案してもらいました。出てきた120ぐらいの提案の中から、21個を選び、半年間にわたって調査と議論をするための費用を提供しました。オンラインで毎週のように議論して21課題から7課題を選び、それを融合させて5課題にして、最終的には2つを選びました。

 その1つが、地球温暖化の結果起きている激甚災害を生み出すような気象をコントロールしようというものです。現在研究チームを募集しているところなのですが、その中心になるリーダーは40歳を超えたばかりの研究者なんです。

 こうした大きな研究プロジェクトは、これまでであれば60代の人とか、場合によっては70代の人が率いることが多かった。ですが、我々が研究のゴールとして設定したのは2050年です。今40代であっても50年にはほとんどの人が70代になっていますから、ギリギリですよね。

 だから若い研究者には、想像される未来を超えていくような課題に挑んでもらわなければならないし、彼らであれば自分たちの未来に責任を持つはずなんです。そういう人たちがもっと色々なことをできるようにしてあげなければいけない。今、人を育てないと日本はどんどん小さな存在になっていくだろうと心配しています。

コンバージェンスという言葉を辞書で調べると、「収束」とか「収れん」となっています。

濱口氏:少しニュアンスが違うかもしれません。複合的な要素を束ねて新しいものをつくっていくという意味合いが強いですね。収れんというと収まっていくように聞こえますが、米国ではもっとアグレッシブな感じで使っていますね。

 今の社会は非常にスピードが速いし、情報も氾濫している。「自然現象を見ていたら新しいものに気がつく」なんて昭和の時代ののどかな世界です。もはや、1人で全ての情報を処理して、管理して、判断することなんてできない時代なんですよ。違う視点を持っている人たちが議論し合わなければ真実が見えてこない。だからコンバージェンスが大事なのです。

英知を結集しなければ課題を解決できないということですね。

濱口氏:そうです。真っ正面からこれをやっていかないといけません。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「ニッポンの活路」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。