CG(コンピューターグラフィックス)を用いたアバター(分身)を社会に普及させ、老若男女問わず活躍できる社会を実現する。ローソンなどが導入したCGアバターの技術を開発した大阪大学発のAVITA(アビータ、東京・品川)は、ロボット工学の石黒浩教授らが2021年に立ち上げたスタートアップだ。石黒氏といえば河野太郎デジタル相やタレントのマツコ・デラックスさんにそっくりのアンドロイド(ヒト型ロボット)を製作したことで知られる。なぜ今、アバターに注力するのだろうか。

石黒浩[いしぐろ・ひろし] 大阪大学大学院基礎工学研究科教授
石黒浩[いしぐろ・ひろし] 大阪大学大学院基礎工学研究科教授
1963年、滋賀県生まれ。京都大学大学院情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より現職。ATR(国際電気通信基礎技術研究所)石黒浩特別研究所所長。アンドロイドの第一人者で、遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発を行う。25年国際博覧会(大阪・関西万博)にもプロデューサーとして参画する。(写真:今 紀之)

石黒教授はアンドロイドの研究をされてきましたが、なぜCGを用いたアバターを手がけるスタートアップを立ち上げたのでしょうか。

石黒浩・大阪大学教授(以下、石黒氏):大学でいくら研究開発を進めても、なかなか社会実装ができないからです。欧米とは違い、日本から新しい技術を発信していくことがしばらくできていません。新型コロナウイルス禍でアバターの重要性が高まったことで、自分が社会実装に乗り出せば、もしかしたら世の中を変えることができるのではないかと考えたのです。当初立てた事業計画よりは進んでいて、さらに広がっていくと思います。

ロボットよりもアバターが先に世の中で普及するということでしょうか。

石黒氏:今の世の中での重要性を考えれば、その方がいいわけです。まずはパソコンやタブレット端末などの機材があれば導入できるCGアバターを先行して普及させ、一人ひとりが自由に働ける社会をつくること。そのような社会が実現するならば、物理的な存在感があり、付加価値のあるロボットも受け入れられると思っています。

 ただ、僕はロボットが大事というよりも、高齢の方やハンディキャップのある方、子育てや介護中で家から出られない人々も、アバターを使っていつでもどこでも自由に働けるようになる技術の開発が大事だと考えています。そういうふうにして、人間が抱えるさまざまな「制約」を取り除くのが、僕たちの目指す技術開発です。

AVITAとの協業で人材大手のパソナグループが立ち上げた研修施設「淡路アバターセンター」(兵庫県淡路市)では中高年層を対象にしたリカレント(再教育)プログラムとしてアバター講習も行われている
AVITAとの協業で人材大手のパソナグループが立ち上げた研修施設「淡路アバターセンター」(兵庫県淡路市)では中高年層を対象にしたリカレント(再教育)プログラムとしてアバター講習も行われている

積極的にテレビ番組に出る理由

2月に日本テレビ系のバラエティー番組「マツコ会議」で、タレントのマツコ・デラックスさんと自身のアンドロイド「マツコロイド」が8年ぶりに共演しましたよね。石黒先生も番組に登場しましたが、メディア露出にも何か狙いがあるのでしょうか。

石黒氏:バラエティー番組に出る狙いがあるわけではないのです。いろいろな実験をテレビの力を使ってやらせてもらえるので、研究の一環と捉えています。テレビ番組には放送作家が準備した台本が一応ありますが、マツコさんも私も、台本通りにはしゃべらないんですね。本音で話せるから出ているというところがあります。

「人間とは何か」という根源的な問いにロボット研究から向き合ってきた石黒教授にとって、人間にとっての「幸せ」とは何だと思いますか。

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