感染拡大の波を何度も繰り返す新型コロナウイルス禍で観光業界が苦しんでいる。国内有数の観光地、沖縄も同様だ。インバウンド(訪日外国人客)需要の急拡大に沸いた2010年代から一転、コロナ禍以降は観光客が急減。県内GDPの2~3割が観光関連と依存度が高い沖縄にとっては死活問題だ。沖縄を拠点に路線網を広げる日本航空(JAL)グループの日本トランスオーシャン航空(JTA、那覇市)の青木紀将社長は「観光地としてのポテンシャルは保てている」としながらも、コロナ禍を機に観光業界のあり方を変えていく必要があると説く。

<span class="fontBold">青木紀将(あおき・のりゆき)氏</span><br />日本トランスオーシャン航空社長。東京都出身。早稲田大学大学院卒業後、1989年日本航空(JAL)入社。経営企画室、香港支店などを経て、経営管理部長、旅客システム推進部長、路線統括本部副本部長を歴任。2019年4月JAL執行役員就任、同年6月から現職。57歳。
青木紀将(あおき・のりゆき)氏
日本トランスオーシャン航空社長。東京都出身。早稲田大学大学院卒業後、1989年日本航空(JAL)入社。経営企画室、香港支店などを経て、経営管理部長、旅客システム推進部長、路線統括本部副本部長を歴任。2019年4月JAL執行役員就任、同年6月から現職。57歳。

2021年、沖縄県では緊急事態宣言が1月から2月、そして5月から9月にかけて発令され、離島では医療提供体制が逼迫しました。この間の旅客需要はどう推移しましたか。

JTA青木紀将社長(以下、青木氏):前提として、JTAのコロナ禍前の事業規模は1日に70便を運航し旅客数は約1万人、1億円ほどを売り上げていました。その上でまず20年度を振り返ると、4~5月の1回目の緊急事態宣言の際は1日の旅客数が数百人という日もあり、5月はコロナ禍前の10%ほどまで落ち込みました。でも6~7月は県民向けの観光需要促進策「おきなわ彩発見キャンペーン」や「Go To トラベル」の効果などもあって、30~50%ほどに戻りました。

 ただ8月になると感染拡大の「第2波」が訪れ、沖縄県は独自の緊急事態宣言を発令。25%ほどに再び落ち込みます。本来、8月は沖縄観光にとって最繁忙期で、1日の旅客数が1万人を超える日があるにもかかわらずです。10~12月は再び観光振興策が功を奏して60%超となり、特に11月は75%ほどまで回復しました。ただ1月に入ると再び感染拡大の波が押し寄せ、30%ほどに落ち込みました。簡単に言えば、需要が乱高下を繰り返したのが20年度でした。平均すると旅客数はコロナ禍前の4割ほどです。

 21年度は4月10日にまん延防止等重点措置の適用が発表され、5月からは緊急事態宣言が発令されました。上半期(4~9月)は10日間しか「日常」がなかったということです。結果、旅客需要はコロナ禍前の25~30%ほどを推移し続けました。20年度は感染状況に波があり、良いときも悪いときもありましたが、21年度の上期はずっと需要が低調で、感情的には「いつまで続くのか」という感じでした。

そんな中でも沖縄を訪れるのはどんな層だったのでしょうか。

青木氏:20年度は海外に行けないから沖縄に来た、という方が多かった。空港に着いてレンタカーを借りてホテルに直行すればプライベートな、密を避けた旅ができると。20年度の国内線全体の旅客需要はコロナ禍前に比べ3割ほどでしたが、沖縄発着に限れば4割ほど。実は国内線の中で沖縄便は比較的需要が残った印象でした。

 ただ、21年度の上期は旅の行き先を「海外の代替」や「好きな旅のスタイル」で選ぶというよりは、より安心安全な地を選ぶという志向が高まったのか、全国平均との差はかなり縮まった。恐らく人口当たりの感染者数で沖縄が突出していたり、島の医療提供体制が逼迫したりした結果、安心安全な地を求める旅の需要に応えられなかったのだろうと思います。

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