高速バス事業で急成長したWILLER(大阪市北区)が、KDDIと合弁でエリア定額乗り放題サービス「mobi(モビ)」の本格展開を始めた。アプリで乗り合いタクシーを呼び出し、半径2km圏内の移動が自由にできる。30日間乗り放題で5000円(税込み)という新しいビジネスモデルだ。テレワークが定着し、在宅時間が増える中、求められる移動サービスが変わりつつあるという読みがある。

WILLER(ウィラー)は2021年6月から東京都渋谷区と京都府京丹後市で、エリア内の乗り合いタクシーが30日間5000円(大人1人の場合)で乗り放題になる「mobi(モビ)」を始め、22年1月からは事業パートナーとしてKDDIを迎え入れました。高速バス事業で急成長を遂げたウィラーがなぜ、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に力を入れるのでしょうか。

村瀬茂高・WILLER代表取締役(以下、村瀬氏):MaaSは最初、(フィンランドのMaaSアプリ)「Whim(ウィム)」が日本に入ってきたために、「MaaS=アプリ」というイメージが付いてしまった印象があります。実際には、複数の交通手段を組み合わせて自由に移動できるようにすることがMaaSの本質です。アプリはそれを予約できる機能にすぎません。

<span class="fontBold">村瀬 茂高[むらせ・しげたか]氏</span><br />WILLER代表取締役。1994年にWILLERの前身となる旅行会社西日本ツアーズを創業。2000年代に都市間の高速ツアーバス(旅行商品)の企画を始め、インターネット予約の普及を追い風に運行路線を拡大。13年に自社で運行する高速路線バスに移行し、全国で20路線279便を運行する大手事業者となった。15年には京都府・兵庫県を走るローカル鉄道の運行を引き継ぎ、鉄道事業に参入。近年はMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に力を入れている。
村瀬 茂高[むらせ・しげたか]氏
WILLER代表取締役。1994年にWILLERの前身となる旅行会社西日本ツアーズを創業。2000年代に都市間の高速ツアーバス(旅行商品)の企画を始め、インターネット予約の普及を追い風に運行路線を拡大。13年に自社で運行する高速路線バスに移行し、全国で20路線279便を運行する大手事業者となった。15年には京都府・兵庫県を走るローカル鉄道の運行を引き継ぎ、鉄道事業に参入。近年はMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)に力を入れている。

 日本には世界で最も素晴らしい鉄道網があり、正確な時間で自由に移動することができます。都市部の地下鉄や路線バスも完成度が高い。足りていないと思っているのが長距離バスよりやや短い、100~200kmくらいをカバーする高速バス、そして鉄道駅やバス停から先のラストワンマイルです。ここを充実できれば、マイカーと同等かそれ以上の自由な移動手段が完成すると考えました。モビは自宅から半径2kmのラストワンマイルでの利用をターゲットにしています。

 新型コロナウイルス禍でリモートワークが進み、オフィスへ出勤する必要性がなくなってきています。働いている人はこれまで職場を中心に生活が成り立っていましたが、在宅時間が増えることで、近所の人たちとのコミュニティーが重要になっている。生活の価値観が大きく変わってきています。そういった生活様式を支えるためには、マイカーを持っていなくても希望の場所へ自由に行けるサービスが必要ではないかと考えました。

 これまでの公共交通機関は、利用者が運行ダイヤなどに合わせて使うものでした。飛行機のように長い距離の移動なら、運航時刻に合わせて動いても不満は起きないでしょう。しかし短距離の移動では、決められた時刻に合わせて動くというのは面倒くさいですよね。特に生活交通と呼ばれる、自宅から半径2km圏内では、A地点からB地点へと往復するだけでなく、A地点からB地点、そしてC地点へと回遊するような移動もある。利用者個々人のニーズに合わせて柔軟に移動できるようにするのがモビというサービスです。

実際、どのような利用者が集まっていますか。

村瀬氏:半数が子供がいるファミリー層、その次に多いのがシニア層です。利用者へのアンケート調査によると、モビによって移動量が増えたと回答した人が、渋谷では約3割、京丹後では約6割。生活スタイルが変わったという回答は渋谷では4割でしたが、京丹後では8割に達しています。いずれも「移動の範囲が広がった」「楽になった」という声が寄せられていますが、地方のほうがインパクトが大きかったようです。