「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索する本連載。

 不登校が急増している。文部科学省の調査によると、小・中学校の不登校児童・生徒の数は、2022年度、前年比24.9%増え、在籍児童・生徒の2.6%を占める。

「不登校の原因として大きいのは、学習の困難。学習障害をはじめとする発達障害の存在を見逃してはいけない」と指摘するのは、東京大学先端科学技術研究センター(東大先端研)シニアリサーチフェローの中邑賢龍氏だ。

 中邑氏は、今の教育の仕組みを抜本的に変えるべきだと提言する。例えば……。

「漢字を鉛筆で書ける必要があるのか? キーボードで打てればいい」
「算数のテストで計算機を使ってもいいのではないか?」
「英語を全員が全員、学ばなくてもいいのではないか?」

 さらに今、盛り上がりを見せる「ギフテッド(突出した才能を持つ子)」教育にも、警鐘を鳴らす。前回(「発達障害の子はイノベーションを生むか? 『家出』を教える理由」)に引き続き、中邑氏に話を聞く。

不登校の子どもは増え続けています。文部科学省の調査(「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)によると、令和3年度(2021年度)、小・中学校の不登校児童・生徒の数は24万4940人で過去最高。前年度と比べて24.9%増加し、在籍児童・生徒に占める割合は約2.6%になります。

 中邑先生が不登校傾向のある子ども約800人を調査したところ、1年以上勉強が遅れている子どもの80%に「書きの困難」が疑われるとご著書(『育てにくい子は、挑発して伸ばす』)にありました。これは「書けない」ことで学校に行きにくくなる子が多いということでしょうか。

中邑賢龍氏(以下、中邑):当然です。内容がわかっていても、文字に書けなければ、学校での評価は低くなりますから。

この連載でこれまで、学習障害(*)や発達性読み書き障害(*)などについて取材をしてきて、「不登校の背景に、学習障害の問題がある」という話に触れたことはありませんでした。

* 学習障害:知能が正常だとしても、学校の勉強に関連する能力に困難があることを一般に指す(詳しくは、「読み書きが苦手な『発達障害』はクラスに3人 知能と違う課題」参照)。「LD (Specific Learning Disorder)」「限局性学習症」とも呼ばれる。

* 発達性読み書き障害:学習障害のなかで、文字を読むことや書くことに困難があるケースを指す。学習障害のなかで現実に問題になることが特に多いとされる。

中邑:それには理由があるんです。

中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)
中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)
1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター・シニアリサーチフェロー(寄付研究部門「個別最適な学び研究」)。広島大学大学院教育学研究科博士課程後期単位修得退学後、香川大学教育学部助教授、カンザス大学・ウィスコンシン大学客員研究員、ダンディ大学客員研究員、東京大学先端科学技術研究センター教授などを経て現職。ICTを活用した社会問題解決型実践研究を推進。著書に『バリアフリー・コンフリクト』(東京大学出版会)、『タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育』(明治図書出版)、『どの子も違うー才能を伸ばす子育て 潰す子育て』 (中央公論新社)、『育てにくい子は、挑発して伸ばす』(文藝春秋)など。(写真/栗原克己)

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