発達障害児に、イノベーションを期待すべきか?

中邑:僕自身は、先ほどの大学院時代の転機からずっと、ICT機器などのテクノロジーを使って、障害のある子を支援する活動をしてきました。けれど、そういう活動をするうち、「これといった障害は見つからないけれど、何かうまくいかない」という子がたくさんいることに気がつきました。不登校傾向の子が目立ちましたが、今ならば、発達障害と診断される子も多かったと思います。

 一方で当時、日本の産業界ではイノベーションがなかなか起きないことが問題になっていました。

多くのイノベーションを生んだエジソンは、小学校を数カ月で「退学」しています。学校になじめない子どもたちから異才を発掘して、イノベーションが起きる社会に変えていこう、と。そんな思いから、「ROCKET」は始まったのですね。

中邑:ROCKETにはよかった部分と、反省すべき点がたくさんあって、昨年(2021年)、約5年間の活動にいったん区切りをつけました。

 ROCKETを始めるとき、僕には、エジソンは育たないにしても、ユニークな子どもたちが生きられる社会にしなくてはいけないという思いがありました。だから、「変わった子」を募集しようと考えました。じゃあ、変わった子はどこにいるのかというと、普通の学校の普通のクラスにはいないんじゃないか、と。変わった子って、人の話をちゃんと聞かないものじゃないですか。そして、人の話をちゃんと聞かない子は、今の学校ではうまくやっていけない。だから、人の話を聞かない変わった子はだいたい、非行に走っていたり、特別支援学級にいたり、引きこもりになっていたりする。そこをターゲットに子どもたちを募集したんです。

学校になじめない子の、自由な学びの場としてスタートしたのですね。

中邑:選抜の基準は、「志のあること、自分で行動すること、特異な才能があること」。

そして第1期は、601人の応募に対して、スカラー候補生が15人。狭き門でした。

中邑:面白い子がいっぱい来ましたよ。集めてみたら、けんかはするわ、泣きだすわ。そんな子たちに、僕らは当時、かなり厳しく接していました。

志を持って参加することが、そもそもの条件ですから。

中邑:そうです。しかし、「志を持って、自分で動く」という基準で選抜しても、厳しい状況に置かれれば、やはり折れる子はいるわけです。プログラムについていけない子が出てきてしまったのが、最初の反省です。そうなると、保護者には「うちの子は確かに不登校だけど、特別な才能もないようだ」という思いが生まれます。「それではダメなのか。普通ではダメなのか」といった疑問も湧き上がります。

その気持ちは、親としてすごくよくわかります。

中邑:不登校や発達障害の子どもたちから、イノベーションを生み出す子も出てくるかもしれませんが、全員にイノベーションを期待するのは違う。そんなところに、当初の目的とは違う、進学校のとても優秀な子どもたちがやってきました。

ああ、「東大が、ギフテッドを探しているらしいぞ」ということで。

中邑:ええ。それで面接をすると、どうしてもその子らを選ばざるをえなくなるんです。

まあ、そうなりますよね……。

中邑:スタッフにとっても、楽ですからね。「先生、マイルドな子を選びましょう」みたいな声が出てきて。これでは意味がないと思って、ROCKETの活動に区切りをつけることにしたんです。

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