薬を飲んだら、テストが満点に

薬を飲むと、ADHDの子はどんなふうになるんですか?

高橋氏:そうですね。極端な例では、別人のようになります。これまで字が汚くて判読不能、だからテストはほとんど0点。そんなお子さんが、きちっと書けて満点を取ったとか、夏休みの自由研究をちゃんと仕上げて賞をもらったとか、そんな話を伺うと、薬も使いようでは子どもの人生を変えるのかな、って感じるときがあります。

え、そんなに変わるんですか?

高橋氏:裏を返せば、そのような子では、脳内の神経伝達物質がそれだけアンバランスな状態にあったんだ、ということです。薬によってそれが整えられたんですね。もし、ライターの黒坂さんが飲んだら、どうなると思いますか?

突然いい文章が書けるようになったり……なんてことは、ないですよね。

高橋氏:ないですね。

普通の人が飲んでも、劇的な変化は起きない、と。

高橋氏:ただ、何日間か全く眠らずに、食事もとらずに仕事に没頭できるかもしれません。危険な状態ですね。そもそも普通の人が飲むことは法律で禁止されています。

集中力を上げる薬だから、「超集中状態」になるというわけですね。飲みたがりそうな編集者さんの顔が数人、頭に浮かんできましたが……。でも、眠れないほどの集中が続くのでは、飲み続けるのは無理そうですね。

高橋氏:ええ。先ほども申し上げましたが、この薬を飲んでやっと落ち着いて日常が送れる子というのは、もともとドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが悪かったということなんです。

ああ、そういうことなのですね。

高橋氏:薬物治療の目的は、決して子どもを「静かにさせること」ではないんですよ。日々の困難を緩和し、あたり前の日常生活を送る。そして自分に自信を持ってもらう。それが治療の目的なんです。

飲んでいる子どもたちは、違いを感じているものですか?

高橋氏:頭がすっきりする、という感じがあるようです。あとは、「できた」という感覚が持てるようになる。最後までできた、字がきれいに書けるようになった、先生の話が頭に入ってくる。「これ大事なお薬だって、分かるよ」って。そんなふうに言います。本人も自覚しているんですね。

 こんなふうに一時期、薬の力を借りることはありますけど、最終的に飲まないですごせるようになる子も、もちろんたくさんいるんです。週末は薬を飲まない、など徐々に薬の力を借りなくても済むようになっていきます。そして、自分の意思で自分をコントロールできるようになったとき、自分に自信を持てたときが薬物治療が終わるときです。

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