「発達障害」の診断が「星占い」になっていないか?

やはり一般的な病気の診断とはずいぶん違うものなんですね。

高橋氏:ネットにも「DSM-5」のチェックリストは出回っているので、親御さんがお子さんの様子をチェックして、「こんなに当てはまりました」と来院することがあるんです。そういう場合に、「ああ、それ星占いですね」ということもあるんです。「そういわれてみれば当たっているような気がしてきた」程度の場合もあるということです。でも発達障害の診断は「魚座の方の性格はこう。〇〇とは相性がいいけど、××は向かない」「今日のラッキーカラーは△△!」とか、そんな話ではないですよね。チェックリストの普及はいい側面もあるのですが、一方でむやみに不安をあおったり、子どもや生徒を安易に診断したりするという弊害も出てきています。

チェックリストに全部当てはまったとしても、本人やご家族が困っていなければ、発達障害の診断は慎重に。そういうことを、私たちも知らないといけないですね。

高橋氏:保育園の先生に「お子さんは集団指示が通らない。ADHDかもしれないから病院で診てもらってください」と言われましたと来院する方は意外に多いんです。ただ、お母さんに言わせると「ちょっと活発だけど家ではいい子なんです」と。なぜ園の先生にそういうことを言われるのかぴんときてないケースもあるんですね。それは、完全にセーフなんです。

セーフ、ですか。

高橋氏:そう。学校の先生や保育園の先生がアウトといっても、お母さんがセーフと思っている。何よりお子さんが「楽しい!」と園や学校に通っているなら、それはセーフなんです。わざわざ病名を付ける必要もない。

言葉が出るのが遅いだけの子が、発達障害と誤診される

言葉の発達が遅い、というのも広い意味では発達障害ですよね?

高橋氏:そうですね。ASDでは言葉の遅れが重要な症状なのですが、単に言葉を話すことが遅い場合(表出性言語発達遅滞)と、対人コミュニケーションに問題のあるASDでは、困難さの内容、度合いが大きく異なります。実際に、言葉の遅れがあるお子さんで、親御さんがASDを心配してしまうことも珍しくありません。しかし、言葉が遅れているからASDというわけではありません。だって、咳(せき)をしたら、新型コロナウイルス感染、というわけではないですよね?

あ、違いますね(笑)。

高橋氏:それと同じように、同じ症状だから同じ病気というようなそんな簡単な話ではありません。言葉が遅れている子どものなかでASDの子はごく一部です。「表出性言語発達遅滞」も発達障害の一つですが、こちらは「言語症」とも呼ばれます。親御さんがASDを心配されるお子さんでも、実際にはこちらの場合が多く、そして一番心配の要らないケースです。

え、一言も話さないのに、心配しなくていいんですか?

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