「子どもの発達障害」と「大人の発達障害」は異なる
子どもの発達障害と大人の発達障害で、違いはあるのでしょうか?
高橋氏:確かに、精神科医の視点で捉えた発達障害と、小児科医の認識は異なっていて当然と思うのです。
精神科医の岩波明先生には、発達障害とは「『生まれつきの脳機能の偏り』を持つ状態」だと教わりました(こちらの記事)。
高橋氏:小児科医の立場で診る発達障害というのは先ほどお話しした「神経発達症」という言葉に近いんですね。「発達が進むに従って、次第に明らかになってくる日常生活上の困難さ」というのが、僕ら小児科医が考える発達障害の本質です。
成長するに従って分かってくる、ということですか?
高橋氏:そうです。生まれたての赤ちゃんに発達障害という診断は付きません。でも、生まれたての赤ちゃんでも、肺炎という診断は付きますよね。ですから「発達とともに明らかとなる」という点は非常に重要なポイントなんです。
そして「発達とともに」のなかにも、2つの意味合いがあります。
1つは、時間の経過とともにということです。赤ちゃんが、お座りをして、立ち上がり、おしゃべりが始まり……。このように脳が発達し、子どもの神経機能が伸びていく、その過程で明らかになるという意味合いが1つです。
もう1つは、生活の場が広がるとともにということです。成長するにつれて、子どもの生活圏はどんどん広がっていきます。保育園に預けられる、小学校に入学する。日常生活の内容がだんだん社会的になっていきます。それにつれ、それまで問題とならなかった“個性”が気になり出すという意味合いです。
ですから、子どもの発達障害とは、子どもが育ち、社会生活を営むにつれて次第に明らかとなってくる「強い個性」という言い方もできるかもしれません。
社会生活の広がりのなかで、困難が生まれはじめる
成長・発達という時間軸と、生活圏の社会的な広がりに応じて、だんだんと問題があらわになるんですね。先ほど先生は「個性」とおっしゃいましたが、こういうお話を聞くと「これ、病気なのかな?」という気がしてきてしまうのですが。
高橋:そうなんですよ。個性と病気のはざま。ただやはり、障害というニュアンスはあるんです。とりわけ社会生活を営んでいく上で、障害物レースのように「障害物が多いよね」という意味で。「あなたが障害者」と言っているのではなくて「いろいろ困ったことに多く出合うよね」という意味です。
現代社会では「障害を感じてしまう」ということですね。
高橋:そうです。困難さを感じる、ともいえます。英語で障害者はhandicapped person といいますね。handicapには「不利な条件」という意味がありますが、そのニュアンスが近いと思います。強い個性のために、日常生活で不利な場面もあるということです。
ですから先ほどご紹介した分類「DSM-5」でも、「チェックリストのうちの何項目が当てはまるかより、お子さんやご家族が日常生活で本当に困っているかどうかをしっかり見極める」ということが強調されています。
ということは、まったく同じ症状の人が2人いたとして、一方は日常生活に困難を感じ、一方は感じていなければ、前者は発達障害と診断されて、後者はされないと。
高橋氏:そうなんですよ!
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