注目を集めながらも、理解しにくい「発達障害」の世界。そんな「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索し、できるだけ平易に、かつ正しく紹介することを試みる本連載。

 前回までは、精神科医の岩波明氏に「大人の発達障害」を中心に話を伺ったが(前回はこちら)、今回からは、小児科医の高橋孝雄氏に「子どもの発達障害」について尋ねる。

 同じ「発達障害」でも、精神科医が診る「大人の発達障害」と小児科医が診る「子どもの発達障害」では、捉え方が異なる。気になる「IQ」の問題など、「子どもの発達障害」について分かりやすく、ユーモアを交えた温かな語り口で解説していただいた。

発達障害とは何か、先生の言葉でできるだけ分かりやすくご説明いただくと、どうなりますか。

高橋孝雄氏(以下、高橋氏):これ、実はものすごく難しい質問なんです。糖尿病やがんなどいろいろな病名がありますが、一般に病名の診断基準や分類は、比較的長い期間、変わらないことが多いものです。しかし、発達障害は違います。年を経て、これほど定義や捉え方が変わってきている病名も珍しいです。一部では混乱を招いているのも事実です。

 また、一般に「病気か病気じゃないか」をはっきりと決めることが診断の基本ですよね。「症状がこうだから、検査結果がこうだから、◯◯病です」あるいは「◯◯病ではないのでご安心を」と。そのように判断できることこそが、つまり明確な診断が下せることこそが、病名の意義でもあるんです。

検査の結果、「がんかがんではないか」が分かるからこそ、がんという診断名、病名に存在価値がある、ということですね。

高橋氏:ええ。でも発達障害は、そのように白黒つけられるものではないんです。「グレーゾーン」と呼ばれる曖昧な部分を含んでいる“診断名”なんです。

<span class="fontBold">高橋孝雄(たかはし たかお)</span><br />慶應義塾大学医学部教授(小児科学教室)。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。日本小児科学会前会長、日本小児神経学会前理事長。1957年8月生まれ。1982年慶應義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年に帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍している。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。 別名“日本一足の速い小児科教授”。著書に『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4838730136/" target="_blank">小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て </a>』(マガジンハウス)がある(写真:栗原克己)
高橋孝雄(たかはし たかお)
慶應義塾大学医学部教授(小児科学教室)。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。日本小児科学会前会長、日本小児神経学会前理事長。1957年8月生まれ。1982年慶應義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年に帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍している。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。 別名“日本一足の速い小児科教授”。著書に『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て 』(マガジンハウス)がある(写真:栗原克己)

「発達障害」改め「神経発達症」

高橋氏:まず「発達障害」という名称ですが、この言葉自体、専門家の間ではだんだん使われなくなっています。僕も「神経発達症」という言葉を使います。「障害」という言葉は、英語のDisorderを訳したものなんですが、主に差別的なニュアンスがあるという理由で、「症」という表現に置き換えられたんです。

病院では「発達障害」ではなく、「神経発達症」という言葉が使われるようになってきた、と。呼び名だけでなく、分類にも変更があったのでしょうか?

高橋氏:現在は、米国の精神医学会が作成した「DSM-5*1」という分類が使われています。この分類は、もっぱら医者が診断するときに使い勝手がいいように配慮されていて、わりと頻繁に分類を変更しています。実地医療で使いやすいことが重視された分類だといえます。他に、厚生労働省が診療報酬を計算するために使う世界保健機関(WHO)の「ICD*2」という分類もあります。この2つでも、分類が異なっているんです。さらに、DSM-5の前身である「DSM-4」で使われていた「広汎性発達障害(PDD)*3」を「自閉スペクトラム症(以下、ASD)*4」の代わりに使うベテランの先生もいます。

呼び名にも分類にも揺らぎがあり、先生によって使う言葉が違っているんですね。先生は「神経発達症」という言葉をお使いとのことですが、ここでは一般になじみのある「発達障害」という言葉を使って、お話を続けさせていただきたいと思います。

 先生は小児科医ですが、子どもの発達障害というと「IQ*5」が気になるという人は多いのではないかと思います。発達障害と「IQ」の関係について教えてください。

*1. DSM-5 米国精神医学会が作成する公式の精神疾患診断・統計マニュアルの第5版。精神疾患を診る際に用いられる診断基準。DSMはDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略称。
*2. ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)WHO作成の国際統計分類。傷病、障害、死因などの国際的な比較を目的としている。
*3. PDD (Pervasive Developmental Disorder)広汎性発達障害。
*4. ASD (Autism Spectrum Disorder)自閉スペクトラム症。
*5. IQ(Intelligence Quotient)知能指数。知能検査結果の表示法の一つ。指数 100が平均値。
続きを読む 2/5 IQが高くても、幸せとは限らない

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