注目を集めながらも、理解しにくい「発達障害」の世界。そんな「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索し、できるだけ平易に、かつ正しく紹介することを試みる本連載。

 今回も、日本で初めてADHD(注意欠如・多動症)専門外来を立ち上げた医師の岩波明氏のインタビュー。3回シリーズの最終回となる(前回はこちら)。

 発達障害の問題を複雑にしている「誤診」と「二次障害」、そして「遺伝」について、専門家の立場から詳しく話を伺った。

<span class="fontBold">岩波 明(いわなみ あきら)</span><br>昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。特に大人の発達障害に詳しい(写真:栗原克己)
岩波 明(いわなみ あきら)
昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。特に大人の発達障害に詳しい(写真:栗原克己)

発達障害には、誤診も多いという話を聞くのですが、実際はどうなのでしょうか?

岩波明氏(以下、岩波氏):「うつ病と言われたんですが、本当は発達障害じゃないでしょうか?」と来院する人は、たくさんいます。そしてその場合、発達障害を疑う患者さんのほうが正しいことが多いと思います。ただ、合併している場合もあるので、すべてが誤診というわけではありません。

合併しているというのは、どういうことでしょうか?

岩波氏:もともと「注意欠如・多動症(ADHD*1)」や「自閉スペクトラム症(ASD*2)」があり、それにプラスして二次的にうつ病が生じているんですね。

前回、発達障害のある人というのは、子どもの頃から「だらしない」「ちゃんとしていない」「ふざけている」などと、親や先生から責められることが多く、自尊感情が損なわれやすいというお話を伺いました。それが原因で、うつ病を発症するということですか。

岩波氏:そういうケースもあります。ですから、表面だけ見ればうつ病なんですが、根本には発達障害がある人が多いんです。

*1. 「Attention—Deficit/Hyperactivity Disorder」の略
*2. 「Autism Spectrum Disorder」の略

例えばADHDでなおかつうつ病という場合は、どちらの治療を優先するのでしょうか。一緒に行うのですか?

岩波氏:うつ病が重い場合は、まずうつ病の治療をします。うつ病が改善してから、ADHDの治療をするかどうかを再検討するわけです。

 うつ病は、発達障害の「二次障害」として一番多い疾患です。

「二次障害」とは、どういうことでしょうか?

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