注目を集めながらも、定義すら流動的で理解しにくい「発達障害」の世界。そんな「発達障害のリアル」を、自身も発達障害(学習障害)の息子を育てるフリーランス編集者・ライターの私(黒坂真由子)が模索し、できるだけ平易に、かつ正しく紹介することを試みる本連載。
今回は、前回に続き、日本で初めてADHD(注意欠如・多動症)専門外来を立ち上げた医師の岩波明氏のインタビューをお届けする。
発達障害の中でもADHDは、「成人の精神科関係の疾患で一番多い」といわれる。大人になって初めて「自覚」し、診断を受けてがっかりするどころか「ほっとする人」が大半という。
先生のところに受診に来る患者さんは、どのような方が多いのですか?
岩波明氏(以下、岩波氏):20代から30代前半の社会人で、4年制大学を卒業された方が多いですね。有名大学を出た、いわゆるエリートもいます。これまで「よくできる優等生」だったのに、働き出したら「なんでこんなこともできないんだ」と怒られてしまう。会社でのそんな状況が引き金となり、自分から受診する人と会社から勧められて受診する人がいます。
大人の発達障害は、「注意欠如・多動症(ADHD*1)」と「自閉スペクトラム症(ASD*2)」が主要な疾患であるというお話を前回しました。このうち、数としては圧倒的にADHDのほうが多いんです。いろいろな統計があるのですが、大人に占めるADHDの割合は低く見積もって2~3%、多いと4~5%という統計もあります。5%だとすると、かなりの数ですよね。日本で500万人以上はいることになります。
*2.「Autism Spectrum Disorder」の略
すると、同じフロアに30人の人がいたら、1人はいる計算ですね。
岩波氏:そうですね。成人の精神科関係の疾患で一番多いといわれているのがADHDです。ただ、ほとんどの人が軽症なんですよ。「疾患」といっていいかどうかも分からないくらいの人が多いんです。社会で普通にやっていける人が大多数です。医者の中にも結構いますよ。診断は付くけれども、治療は受けないという人も多いですね。
実は、大人と子どもでは統計結果に差があって、子どもに占めるADHDの割合は少なく見積もっても6%ほどになります。

昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。特に大人の発達障害に詳しい(写真:栗原克己)
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