「アスペルガー」という言葉をよく聞くのですが、発達障害のカテゴリーの1つではないのですか?
岩波氏:以前は、ASD的な特性はあるけれども知的障害や言語の遅れのないケース、いわゆる「高機能のASD」のケースは「アスペルガー症候群」と呼ばれていました。しかし、現在はASDに含まれる下位分類として扱われています。
「アスペルガーという名の天才」は「消えた」
「アスペルガー症候群」というと「天才」のイメージもあります。例えば「シリコンバレーで活躍するエンジニアやプログラマーの大半は、アスペルガー症候群だ」などと、まことしやかに語られたりもしていました。
岩波氏:実は「アスペルガー症候群」という名称は、今ではあまり使われなくなっています。というのも、この名称を生んだハンス・アスペルガー医師がナチスの協力者だった可能性が指摘されたため、米国精神医学会の診断基準「DSM-5(*1)」からは、すでに削除されています。日本での診断もDSM-5に準拠していますから、これから先、この名称は使われなくなっていくでしょう。
したがって、大人の発達障害として主に扱うのは、ADHDとASDとなります。そして、症例数が多いのは、圧倒的にADHDです。
「多動な子ども」とは「歩き回る」とは限らない
ADHD(注意欠如・多動症)に、ASD(自閉スペクトラム症)、そしてLD(限局性学習症)……。略語がたくさん出てきて混乱してしまいそうです。
まずは、大人の発達障害の中で最も多いADHDについて、できるだけわかりやすく教えてください。
岩波氏:ADHDは「注意欠如・多動症」という日本語の名称の通りで、注意・集中力の障害と多動・衝動性が見られる疾患です。
「子どもの頃、忘れ物チャンピオンと言われていました」というような方が、ADHDの典型です。授業中、先生の話を全然聞かないでぼうっとしていたり、空想の世界に遊んでいたり、自由に絵を描いたりしていたというケースもよく見られます。
多動で落ち着かず、授業中におしゃべりをして怒られたりした経験がある方もいます。ただ、ここには誤解も多くて、「多動」というと皆さん、「席に座らないでうろうろしている」というイメージを持つのですが、そこまでの人はあまりいません。いつも体を揺らしているとか、椅子をガタガタさせているとか、その程度です。
それは意外です。多動の子どもとは、「歩き回る子ども」のことだと思っていましたが、むしろ、そういう子は少ないということですね。
では、ASD(自閉スペクトラム症)とはどのようなものなのでしょうか?
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